A 声をかける
B 黙っている (40)
C 歩き出す
A 探しましたよ (40)
B ここにいたんですね
C こんなところにいるなんて
A ライブでのこと
B ドラマでのこと
C ジムでのこと (80)
JADEのライブが終わった翌週。
私は野外フェスのため、泊りがけで地方へと向かう準備をしていた。
するとテレビから聞き覚えのある名前が聞こえる。
(あれ? 今、JADEとか言わなかった?)
気のせいかと思いつつもテレビを見た。
ニュースのテロップには、 『JADEの折原夏輝、元恋人の夢を奪った過去』 と表示されている。
「!」
私は荷造りしていた手を止めて、慌ててテレビにかじりついた。
コメンテーター 「いやー驚きですね。JADEの折原夏輝にそんな過去があったとは」
アナウンサー 「そんな風には見えませんでしたけど、分からないものですね」
テレビから流れてくるコメントに、怒りが込み上げてくる。
(夏輝さんはそんな人じゃないのに!)
アナウンサー 「さて、ここで中継が繋がっています」
画面がパッと切り替わると、そこには夏輝さんのアップが映し出された。
夏輝さんは大勢の報道陣に囲まれている。
夏輝 「…………」
どれだけ質問を浴びせられても、夏輝さんは無言のままだった。
「夏輝さん……」
私はテレビを見つめながら、ただ呆然としていた。
フェス会場に着いてからも私は、夏輝さんの報道のことが頭から離れなかった。
(どうしてあんなことに……)
夏輝さんの過去が気にならないと言えば嘘になるけど、あんな風に邪推なんてしたくない。
もやもやした気持ちのまま歩いていると、たくさんいる参加アーティストたちの人混みの中に夏輝さんの姿を見つけた。
「夏輝さん」
私は夏輝さんに駆け寄っていく。
「おはようござ……」
挨拶をしている間に、夏輝さんはスッと私の隣を通り過ぎてしまった。
(え……?)
一瞬、何が起こったかわからず、私はバッと振り返る。
そして私は……。
「…………」
私は何も言えず、黙って夏輝さんの背中を見守った。
(夏輝さん、きっと人が多くて私に気付かなかったんだよね……) ポジティブやな~(;^_^A
そう思いながら。
私はJADEのリハーサルを見ていた。
(何だか夏輝さん、いつもと違うような……)
いつもはもっとしっかりしている夏輝さんが、心ここにあらずといった様子に見えてしまう。
(失敗もしていないし、何が違うと言われると答えられないんだけど)
それでも私には違って見えたのだ。
夏輝 「っ……。音が……」
ふと夏輝さんの手が止まる。
秋羅 「夏輝、どうした?」
夏輝 「いや……なんかちょっと……」
夏輝さんがギターを弾くが音が出ない。
出ても割れてしまったりしている。
スタッフ 「どうかしましたか?」
スタッフも駆け寄って機材をチェックし始めるが、音が上手く出ない。
夏輝 「ダメだな……」
結局JADEのリハーサルは後回しになってしまった。
秋羅 「らしくないな。トラブルなんて」
夏輝 「…………」
夏輝さんは秋羅さんの言葉にも答えず、無言でギターをチェックし続ける。
冬馬 「プラグが壊れたのか?それてもジャックか?予備のギターに替えたらどうだ?」
冬馬さんも寄って来て心配そうに声をかけるが、夏輝さんはその言葉すら聞かずに押し黙っていた。
(夏輝さん……大丈夫かな……)
運営 「折原さん、どうですか?」
夏輝 「…………」
運営の人に話しかけられても、夏輝さんは口を開かない。
夏輝さんの反応に、運営の人が溜息をついた。
運営 「こちらとしても万全の状態でステージに立っていただきたいんですけど……」
夏輝 「……ちょっと待ってもらえますか」
運営 「分かりました
後でまたリハーサルの時間取りしますから、その時までに何とかお願いします」
運営の人はそう言って去って行ってしまった。
夏輝さんはずっとギターをチェックし続けていたけど、誰も寄せ付けない雰囲気を漂わせ始める。
(このままじゃ良くないんじゃ……)
不安に思っていると、神堂さんが私の前に現れた。
「神堂さん……」
春 「不安そうだな」
「それは……もちろんです」
春 「そうか」
「そもそもあんなひどい報道されたからですよね?」
私は怒りをにじませる。
「ある事ない事、一体誰が言い出したんでしょうか」
春 「……この世界にいれば、一度は経験することだ」
「だとしても!
……なんとかならないんでしょうか」
春 「夏輝は……いつも、1人で抱え込む」
神堂さんはあくまで穏やかだった。
「それでも……」
(なんとかしてあげたいのに……)
何もできない自分がもどかしい。
春 「夏輝が取る行動が全てだと捉えないでほしい」
「え?」
春 「キミならそれが出来るだろう」
神堂さんはそう言い残すと行ってしまった。
(どういうこと……?)
1人、神堂さんが言った言葉の意味を考える。
(夏輝さんの取る行動……)
さっき夏輝さんが私の横をすり抜けて行ってしまったことを思い出す。
(あれは……夏輝さんの想いとは違うってこと?
……そんな都合のいい解釈じゃないよね)
やがて再びJADEのリハーサルが始まる。
今度は夏輝さんのギターの音は出ていたけど、私は不安で一杯だった。
(それでも私は、心配する事しか出来ない……)
私は自分の力の無さを痛感していた。
夜になって、ホテルで出演者の交流のためのパーティが開かれていた。
(夏輝さん、どこにいるんだろう……)
冬馬 「○○ちゃん、どうしたの?」
「あ、冬馬さん。夏輝さん知りませんか?」
冬馬 「いきなり夏輝とは、切ないねぇ」
「……すみません」
秋羅 「謝る必要はないよ。冬馬相手じゃ仕方ない」
冬馬 「秋羅……お前な」
秋羅 「夏輝ならさっきまでそこら辺を歩いてたけど」
「ありがとうございます」
私は2人にお礼を言うと、夏輝さんを探して会場内を歩き回った。
(いない……。部屋に戻ってるのかな)
諦めかけたその時、ホテル近くの東屋に夏輝さんが座っているのを見つける。
(いた!)
私は急いで東屋に向かった。
「夏輝さん」
夏輝 「○○ちゃん……」
夏輝さんは私の声で、驚いたように顔を上げた。
「探しましたよ」
夏輝 「そう……」
「こんなところで、どうかしたんですか?」
夏輝 「いや……ちょっと疲れただけだから心配しないで」
夏輝さんは私からふいっと目を逸らすと、すっと立ち上がる。
そしてそのまま私の横をすり抜けて行こうとした。
(また……)
昼間のことが私の脳裏によみがえる。 バッグミュージックが!Messageだぁ。
(この間は近くなったと思ったのに、また遠くなってしまう……)
「何があったかは私には分かりませんし、夏輝さんが話したくないのなら聞きません」
ふと、夏樹さんが足を止めた。
「でも……夏輝さんが辛そうな顔をしていたら心配します」
夏輝 「ごめん。本当に何でもないから……」
夏輝さんはそう言うと、今度こそ本当に去っていこうとする。
「どうしてですか……?
どうして夏輝さんはそうやって全部、隠そうとするんですか?」
夏輝 「…………」
「夏輝さんはいつも私のことを気遣ってくれて……私は頼りにしていました
だからっ……夏輝さんにも、同じように私に頼ってほしいんです……」
夏輝さんを振り返ると、私はその背中に手を伸ばす。
(手を伸ばせば届く距離なのに……すごく遠く感じる
でも、もうそんなの嫌だ)
「少しは……夏輝さんの心の中を見せてください」
夏輝 「!」
私は夏輝さんを後ろからぎゅっと抱きしめていた。
抱きしめた背中から感じる、夏輝さんのぬくもり。
その熱は、想像していたよりずっと熱い。
(夏輝さんは全部、ここに閉じ込めてしまっているんだ)
夏輝さんの熱を感じながら、私は確信していた。
夏輝 「こういうのって普通、逆じゃないの?」
夏輝さんは少し呆れたように言う。
「逆……?」
何のことかわからずにいると、夏輝さんがくるりと体の向きを変えた。
そして私の方を向くと、ふわりと優しく抱きしめてくれる。
「え……」
夏輝 「普通、こっち」
夏輝さんは私の髪をそっと撫でながら、私の耳元に囁きかけた。
夏輝 「本当にダメなんだ……」
「何が……ですか?」
私はためらいがちに尋ねる。
夏輝 「○○ちゃんといると、本音が出そうで怖い……」
夏輝さんの切なげな声が私の胸を締め付けていく。
私は夏輝さんのシャツの背中をぎゅっと掴んだ。
「大丈夫です……どんな夏輝さんでも受け止めますから
だから、本音を話してください」
(どんなことでも、夏輝さんの心を知りたい)
夏輝 「…………」
夏輝さんはしばらく黙っていたけど、やがて小さな溜息をついた。
夏輝 「全く……こんな俺のどこがいいの?」
夏輝さんは困ったように言う。
「全部……です……」
小さくつぶやくと、夏輝さんは私を抱きしめる手に力を込めた。
夏輝さんの広い胸に顔を埋めると、心臓の音が聞こえてくる。
それは心なしか、早いような気がした。
夏輝 「テレビで観たかもしれないけど、俺にはJADEの下積み時代から付き合ってた彼女がいたんだ」
東屋の椅子に並んで座ると、夏輝さんはポツリと語り始めた。
「JADEの下積み時代……何だか想像できません」
夏輝 「俺達にもそんな時代があったんだよ」
夏輝さんは懐かしそうに眼を細める。
夏輝 「俺にも彼女にも夢があって、お互い支え合って頑張ってたんだ」
「いい関係だったんですね」
夏輝 「ああ……最初はね……」
夏輝さんは悲しげに目を伏せた。
夏輝 「俺がJADEでのデビューが決まった頃だったかな。なかなか夢に近づけない彼女が焦り始めたのは……
俺に対しても劣等感を覚えて……気づけば俺たちはすれ違うようになっていった」
私は夏輝さんの言葉に耳を傾け続ける。
夏輝 「俺たちには、付き合い始めた頃にしていた約束があってね
俺がメジャーデビューを果たしたら、彼女は必ずそのライブに行くと……
もちろん、その約束通り彼女はJADEのメジャーデビューライブを見に来てくれたよ」
ふと、夏輝さんの声が止まった。
夏輝さんはためらうように、膝に肘をついて頬杖をつく。
そしてゆっくりと言葉をつづけた。
夏輝 「……だけど、その日は彼女にとっても大切な日だったんだ」
「大切な……日?」
私は思わず呟いてしまう。
夏輝 「そう……彼女は自分の夢を諦めて、俺のライブを見に来てくれていたんだ」
「!」
夏輝 「後になって分かったことだったんだけどね
もちろん俺は怒った。だけど彼女は自分の夢を諦めてでも、俺の門出を見たかったって……
夢を諦めてでも俺の支えになりたいって……」
夏輝さんの手がわずかに震えているような気がした。
夏輝 「もういいからって……自分の夢を諦めて笑うんだ……
毎日……何も言わず……俺を責める事もせず……自分の夢を追う事もせず……」
夏輝さんはそこで言葉を止めた。
しばらく沈黙が降り注ぐ。
私は何もいう事が出来ず、ただ夏樹さんの次の言葉を待ち続けた。
夏輝 「そんな日々を送ってた時だったかな……彼女が 『抱きしめて』 って言ったんだ
普通の会話の中の流れだったと思うんだけど……
それでも俺は彼女を抱きしめる事が出来なかった……」
(好きな人を抱きしめる事が出来なくなるなんて……
夏輝さんは彼女が夢を諦めたことがすごくショックだったんだ……)
夏輝 「もうダメだと思った……
結局俺たちは別れてしまった」
「…………」
自分が恋人と別れてしまったわけでもないのに、同じくらい胸が苦しくなる。
夏輝 「これでわかったでしょ?俺が彼女の夢を壊したんだ
そんな俺が1人だけ幸せになれると思う?」
夏輝さんはひどく悲しげな微笑みを浮かべていた。
その表情がひどく私を締め付ける。
「…………」
(夏輝さんは今でも、彼女の夢を自分が奪ったと後悔してるんだ……
ずっと罪悪感に苛まれて……)
神堂さんが私に言った言葉を思い出す。
(神堂さんは、夏輝さんが過去に囚われているのを知っていたんだ……だからあんな事を……)
夏輝 「ね、おれってかっこ悪いでしょ……?」
力なく笑う夏輝さんに、私ははっきりと言い切った。
「そんなことないです」
夏輝さんは少しだけ驚いたような表情を浮かべる。
「私は夏輝さんにいっぱい助けられてきました。たとえばジムでのこと……
あの時、夏輝さんが『演技に向いている』 って言ってくれなかったら
私は今頃まだオーディションを受け続けていたかもしれません
夏輝さんが言ってくれたから、オーディションも受かる事が出来たんです」
夏輝 「それは、○○ちゃんの実力だよ」
「もしそうだったとしても、それを見つけてくれたのは夏輝さんです
夏輝さんがいなければ、私は今ここにいませんでした」
私はまっすぐに夏輝さんを見つめた。
「私はいつも夏輝さんに助けられてきました」
夏輝 「○○ちゃん……」
「夏輝さんはかっこいいです。私の目標でもあり、頼りになる……人です」
私は夏輝さんに向かって笑顔を向ける。
「改まって言うと恥ずかしいですけど……でも本当のことです」
照れ笑いを浮かべると、夏輝さんが眩しそうに目を細める。
そして、私の肩にそっと頭を乗せる。
「!」
突然のことに、私は体を強張らせてしまう。
夏輝 「……ありがとう」
夏輝さんは小さくつぶやくと、私の手を取った。
「い、いえ……」
夏輝さんの髪が頬にあたってくすぐったい。
聞こえてくる夏樹さんの吐息で、私の心臓の音が跳ね上がる。
(顔が熱い……)
手元に視線を落とすと、夏輝さんはしっかりと私の手を握りしめていた。
(夏輝さん……)
私は夏輝さんの手の上に、もう片方の手を重ねる。
夏輝 「○○ちゃんの手……安心する……」
「夏輝さんの手も……安心しますよ」
そんな会話をしていくうちに、緊張していた体はいつの間にかほぐれていた。
夏輝さんは目を閉じている。
私も夏輝さんの頭に自分の頭を近づけると、そっと目を閉じた。
いつもに増して長いエピだった!肩が凝りました。
しかしバッグミュージックにピアノが奏でるMessage……最高でした~。
つか……一磨同様……夏樹ってずっと書いてたよね~。
直すの時間かかりそう・……徐々に直していきます。
ごめんね夏輝さま~