Episode16 偽りの魔法が解ける時
A 床がありますけど
B 何が見えるんですか (40)
C ベッドがありますけど
A 何でもないです
B 美味しいですか?(40)
C 美味しいですね
A 嘘つきたくない
B 我慢できません
C 終わりにしたい (80)
野外フェスで大成功した影響で、私は連日テレビや雑誌やラジオなどの出演に追われていた。
(JADEもあのフェスの後、もっと忙しくなったみたいだし……
最近夏輝さんに会えてないな)
だけど寂しいと思う間もなく仕事が押し寄せる。
そして新しい仕事の続く毎日は、私にとっても刺激的でもあった。
山田 「○○、明日のスケジュールの確認をしておく」
控え室で次の仕事のスタンバイをしていると、山田さんがスケジュール帳を片手に口を開く。
「はい」
モモちゃんにヘアメイクをされながら、私は返事をした。
山田 「9時にKスタジオで収録、J誌のインタビュー、打ち合わせ
Tスタジオで写真撮影、P誌のインタビュー、ラジオ収録……」
早口で次々とスケジュールを言われ、私は混乱してしまう。
「えっと15時にKスタジオ……」
復唱しながらメモを取る。
山田 「違う、16時にTスタジオだ」
「すみません」
私は慌てて訂正して復唱した。
山田 「それと、今週の日曜は例の日だ」
「例の日?」
(何かあったかな?)
山田 「一週間に一度、折原夏樹と出かける日だ」
首を傾げていると、山田さんが教えてくれる。
「あ……」
山田 「向こうのスケジュールも調整してもらってある。忘れるなよ」
山田さんに念を押されてしまう。
(わざわざ調整してくれたんだ)
夏輝さんとデートできると思うと、がぜんやる気が湧いてくる。
「はい!わかりました」
張り切って返事をすると、モモちゃんがふふっと笑った。
桃瀬 「○○ちゃん、かわいい~
急に張り切っちゃって、やっぱりダーリンに会えるのが嬉しいのね」
「モ、モモちゃん、からかわないでよ」
桃瀬 「ふふ、ごめんなさい」
モモちゃんはにこにこ笑いながら山田さんを振り返る。
桃瀬 「ねぇ、徹平ちゃん。私たちもデート……」
山田 「断る」
山田さんは冷静な顔で即答した。
私はよろよろしながら部屋のベッドに倒れこんだ。
(予想以上にハードスケジュールだったな……)
枕に顔を埋めて、うとうとしかけたその時だった。
携帯電話が鳴り、画面を見て私は慌てて飛び起きる。
(夏輝さん!?)
「はい、もしもし!」
夏輝 『○○ちゃん?もしかして寝てた?』
「いえ、起きてました!」
本当はウトウトしてたけど、咄嗟にそう答えてしまう。
夏輝 『良かった。ちょっとした見て?』
「下……? 何か見えるんですか?」
夏輝 『ベランダに出てみたらわかるよ』
私は慌ててベランダから顔を出した。
「夏輝さん!」
そこには携帯電話を耳に当て、こちらをみている夏輝さんの姿があった。
「ちょ、ちょっと待っててください!今行きますから」
きびすを返そうとすると、夏輝さんが私を呼び止める。
夏輝 『そのままそこにいて?今日はちょっと顔を見に来ただけだから』
「でも……」
夏輝 『こうやって○○ちゃんの顔見れただけで嬉しい』
夏輝さんは目を細めて笑う。
私の胸がドキッと音を立てた。
(そんな笑顔でそんなこと言われたら……)
私はドキドキする胸にこっそりと手を当てる。
夏輝 『今度ライブすることになったんだ。それを一番に○○ちゃんに伝えたくて』
夏輝さんは日本で一番大きな会場でのライブが決まったことを教えてくれた。
「すごいじゃないですか!おめでとうございます!」
私はまるで自分のことのように喜んでいた。
実際、自分のことより嬉しかったんだと思う。
夏輝 『ありがとう』
「楽しみですね」
夜中だというのに、つい声が大きくなってしまう。
夏輝 『うん……』
ふと夏輝さんの声のトーンが下がったような気がした。
「どうかしましたか?」
夏輝 『いや……やっぱり、○○ちゃんが喜んでくれてる顔を近くで見たかったなって思って』
「え……」
夏輝 『でも今日は我慢しておくね』
「…………」
私は真っ赤になってしまい、何も言えなくなってしまう。
夏輝 『それじゃあ、お休み』
「お、おやすみなさい」
電話を切ると、夏輝さんは軽く手を上げて帰って行ってしまった。
(夏輝さん、時間がないのにわざわざ来てくれたんだ)
消えていく夏輝さんの後ろ姿を見つめながら、私は一人にやけてしまう。
(忙しい中でも、私のこと思い出してくれてたのかな)
そう思うと疲れていても元気が湧いてくる。
だけど、それと同時に少しだけ胸が切なくなってしまう。
(……早くちゃんと夏輝さんと会いたいな)
夏輝さんが消えてしまった夜の街を見つめながら、私はため息を漏らしていた。
翌日。
私は音楽番組でJADEと共演することになった。
差し入れをもってJADEの控え室に挨拶に行く。
「失礼します」
夏輝 「あれ?○○ちゃんどうしたの?」
JADEの控え室に入ると、夏輝さんが笑顔で迎えてくれる。
「今日、収録で一緒だって聞いてご挨拶に来ました」
私も笑顔で夏輝さんに答えた。
夏輝 「え、そうだったんだ」
「私も今日知ったんです」
夏輝 「そっか。昨日まで全然会えなかったけど、続けて会えてうれしいよ」
「ど、どうも……」
JADEのメンバーがいるのに、堂々と言われてしまい私の頬が赤く染まる。
冬馬 「また2人の世界作っちゃって。はい、離れて離れて」
冬馬さんが私と夏輝さんの間にズイッと割り込んできた。
「あ、差し入れ持って来たんです。良かったらみなさんでどうぞ」
私は恥ずかしさを誤魔化そうと、少しうつむき加減でプリンをズイッと差し出す。
冬馬 「え……俺、今すごいプリン食べたい気分だったんだけど
○○ちゃんて、もしかして……エスパー?」
冬馬さんが真顔で言う。
「え……」
秋羅 「○○ちゃん、実は俺もプリンが食べたい気分だったんだ
以心伝心……っていうか運命?」
戸惑う私に今度は秋羅さんが真顔で言った。
「えっと、あの……さあ、どうなんでしょう……」
言葉を濁していると、夏輝さんが冬馬さんを押しのけて私に声をかける。
夏輝 「○○ちゃん、ありがとう。 ここ、座って」
夏輝さんはさり気なく私を椅子に座るように言ってくれた。
「ありがとうございます」
冬馬 「なっちゃんだけずりー」
秋羅 「恋人の特権てやつか」
私が椅子に座ると、秋羅さんと冬馬さんが文句を言う声が聞こえる。
だけど夏輝さんはそれを無視して、プリンを取り出すと私に渡してくれた。
夏輝 「はい。一緒に食べよ?」
「え……でも……」
夏輝 「いいから」
夏輝さんはそう言うと、プリンを食べ始める。
秋羅 「お、うまい」
冬馬 「○○ちゃんの愛を感じる」
秋羅さんと冬馬さんもプリンを食べ始めていた。
そしてふと見ると、神堂さんも黙ってプリンを食べている。
(……神堂さんもプリン、食べるんだ)
意外な一面を見てしまったような気がした。
(神堂さんとプリンっていうイメージが……
夏輝さんはプリンが似合うイメージだけど)
思わず夏輝さんとプリンをじっと見てしまう。
夏輝 「ん?どうかした?」
「あ、いえ…… おしいですか?」
夏輝 「うん、おいしいよ」
「ここのプリン人気あるんですよ」
夏輝さんとプリンが似合うとは言えず、私は適当に話を誤魔化す。
丁度私がプリンを食べ終えた、その時だった。
扉がノックされたかと思うと、ガチャリと開かれる。
夏輝 「相沢さん」
控え室に現れたのは、会沢さんだった。
「あ、私そろそろ失礼しますね。みなさん頑張ってください」
会沢 「いや、出て行く必要はない」
「え?」
会沢 「話が終わればこちらがすぐ出て行く」
出て行くきっかけを失ってしまった私は、そのままその場に立ち尽くす。
会沢 「この間の話だが……考えたか?」
夏輝 「海外デビューのことですよね」
夏輝さんの顔が暗く曇ったような気がした。
会沢 「そうだ」
春 「……JADEは、まだ日本でやり残していることがあります」
神堂さんが静かに口を開く。
冬馬 「それが終われば、海外進出をしたいと思ってます」
冬馬さんも誠実に、まっすぐに答えた。
秋羅 「それが終わるまで待っていくださいとは言えません」
会沢 「断ると言うのか?」
春 「……現時点では、そういうことになります」
夏輝さん以外のみんなが、はっきりと言い切る。
だけど夏輝さんだけが、口を開かない。
会沢 「そうか。分かった」
会沢さんは動揺した様子もなく、それだけ言うと去ってしまった。
収録が終わった後、私はテレビ局からの帰り道を夏輝さんと歩いていた。
自宅が近いので夏輝さんは歩いて来たらしい。
傘をさして2人並んで歩く。
夏輝 「○○ちゃんと一緒だって知ってたら、車で来てたんだけど」
夏輝さんは笑った。
「そんなこと!夏輝さんも忙しいのに」
夏輝 「俺は忙しいのには慣れてるから。昔はバイト掛け持ちしながらバンドやってたし」
「そうなんですか?」
夏輝 「うん。結構体力勝負の仕事とかやってたよ」
夏輝さんの昔の話を聞くと嬉しくなってしまう。
そしてもっと夏輝さんの事を知りたいと思って、ふと会沢さんの事を思い出してしまった。
(世界の舞台で歌うのが夏輝さんの夢……
今日、会沢さんが来た時にはJADEのメンバーは話を断ってたけど、夏輝さんは何も言わなかった。 本当は世界に出たいのかもしれない……)
私の心を映し出すかのように、雨足は強くなっていく。
夏輝 「……で……が」
「え……?なんて……」
夏輝 「だから……が……」
「聞こえ……夏樹さ……雨が……」
雨が激しくなってきたせいか、お互いの声が聞こえなくなってしまう。
すると夏輝さんがスッと私の傘に入った。
夏輝 「これなら聞こえるかな」
そう言いながら夏輝さんは自分の傘をたたむ。
夏輝 「それに……」
夏輝さんは傘を持つ私の手に手を重ねた。
私の胸がドキッと跳ねる。
そしてそのまま包み込むようにして傘を持つ。
夏輝 「デート中には手を繋ぐっていう契約も、これなら守れるよね?」
「夏輝さん……」
契約という言葉を聞いた瞬間、胸がチクリと痛んだ。
(そうだ……契約……)
いくら好きでも、夏輝さんは契約が終われば私の元から去って行ってしまう。
(私が自由にするまでもなく……)
『こういうことには時期というものがある』
会沢さんの言葉が蘇る。
(契約として夏輝さんを縛っているのは……)
「本当に海外デビュー、断っちゃっていいんですか?」
夏輝 「え?」
「会沢さんが言ってた……」
夏輝 「ああ……。あれなら、メンバーが言ったとおりだよ
JADEにはまだ、日本でやり残してることがある」
夏輝さんは淡々と語る。
その穏やかな表情からは本心は読み取れない。
夏輝 「それに……今、○○ちゃんと離れるわけにはいかない。 契約もあるしね」
「ですね……」
今、契約を打ち切れば、ドラマはお蔵入りになってしまうかもしれない。
そしてプロデューサーを始め、色んな人に迷惑がかかってしまう。
(夏輝さんは優しいから、私の将来のことも考えてるれてるんだと思う)
それでも私の胸はざわめいて落ち着かない。
(自由に……)
私はふとその場に立ち止る。
「夏輝さん…… もう、終わりにしましょう」
夏輝 「え?」
夏輝さんは何のことか分からず、目を瞬かせる。
「契約のことです」
夏輝 「○○ちゃん、何言ってるの……?」
「私は……ステージの上の夏輝さんが好きなんです。ギターを持って輝いている夏樹さんが。
だから、夏輝さんをこれ以上縛り付けたくないんです」
夏輝 「○○ちゃん……?」
「今日、会沢さんが返事を聞きに来た時、夏輝さんは黙ってましたよね
あれは契約のことを考えてたからなんじゃないですか?」
夏輝 「ちょっと待って、そんな風に思ってたの? あれは別に……」
「私はこれ以上夏輝さんを苦しめたくないんです!」
私は夏輝さんを見上げながら強く言った。
夏輝 「どうして俺が苦しむなんてことに……」
夏輝さんは私の突然の言葉に戸惑っているようだった。
「夏輝さんは今まで十分苦しんできたから…… もうこれ以上は……」
本当は泣いてでも夏輝さんを引き止めたい。
だけど、それ以上に苦しむ夏輝さんを見ていることもできないと思った。
「だから、さようならです」
夏輝 「○○ちゃん……」
夏輝さんは驚いたように私を見下ろしている。
「今までありがとうございました……」
私は頭をさげると、走り出そうとした。
だけど夏輝さんは、私の手を強く握りしめ離してくれない。
「夏輝さん、離してくだ……」
その手を振り払っていこうとしたその時だった。
「っ……!?」
夏輝さんは傘を放り出したかと思うと、私は強く抱きしめられていた。
夏輝 「もう……遅いよ」
雨音に混じって、夏輝さんの声が降ってくる。
夏輝さんの声はほんの少しだけ切なげで、それなのに笑っているようにも聞こえた。
私の胸が激しく脈打つ。
夏輝 「だって俺、○○ちゃんのこと、本気で好きになっちゃったから……」
(え……?)
降り注ぐ雨に打たれながら、私は夏輝さんの腕の中で身動き出来ずにいた。
うわー!! むっちゃ気になる!続きむっちゃ気になるっつーのっ!
明日、早々に読まねば。
まあさー、この頃の言動や行動見てればなっちゃんの気持ちなんてわかるよねー。
でも、足枷になりたくない主人公ちゃんの気持ちも分かるんだよなー。
せつなーいっ!(:_;)