法務大臣宛 2008年5月20日提出 | 離婚後300日問題-民法772条による無戸籍児家族の会

離婚後300日問題-民法772条による無戸籍児家族の会

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民法772条による無戸籍児家族の会

NPO法人 親子法改正研究会

民法772条による無戸籍児家族の会を支援する会 一同




いつも民法772条による無戸籍児に関し、ご理解をいただきありがとうございます。


さて、昨年5月の民事局長通達により、民法772条により不本意ながら無戸籍状態になっている子のうち、「離婚後懐胎」の一部に関しては救済されました。

しかし、その割合は全体の1割と言われ、救済されなかった9割に関しては無戸籍状態の固定化、長期化が懸念されています。

また、通達の運用においてはトラブル事例等も発生しており、必ずしも「離婚後妊娠」が全て救済されているわけではないことも明らかになっています。

「社会通念上やむをえないケース」をはじめ、真実の父を「父」とする戸籍を一日も早く得られるよう、さらなるご議論をいただき、「子どもの立場」に立った民法772条の抜本的改正をご検討いただきたく、以下要望させていただきます。



1. 通達後における無戸籍児の現状を把握するための調査


2. 法務省通達 「懐胎時期に関する証明書」 の見直し


3. 現状に即し真に子どもの福祉を実現するための民法772条の抜本的改正を含めた親子法の整備



<以下要望内容>



1. 通達後における無戸籍児の現状把握について

各自治体調査では現状は十分に明らかになっていない。正確な数字等がなければ対策もとることもできないので、早急に実態把握をお願いする。


2. 法務省通達 「懐胎時期に関する証明書」 の見直し

これまで「懐胎時期に関する証明書」不受理事例に対して、届出人に対する理由等の開示や説明は十分ではないケースも出ている。既往の不受理事案に対すし、再検証を行うほか、今後の取り扱いについては、届出人への理由等の開示を丁寧に行うよう改善を求める。

一方、同通達が求める医療証明に対しては、以下のような問題があり、抜本的な見直しが必要である。


(1)離婚後懐胎を産科医療に従事する医師に証明させる法務省の通達は医師にとって負担感が強く、出生届を望む人々への協力を躊躇させている。

 すなわち、産科医療は一般に、妊娠後に妊産婦にかかわり、妊娠時期を推定するが、その診療や検査は、母体の健康と順調な胎児の発育・分娩にむけて、正常な妊娠期間を知り医学的に管理するために行うのであって、妊娠時期を歴史的事実として探求するわけではない。

そのような妊娠時期の推定に、子どもの父の証明に関わる法的効果を結びつけるのは、医師に過大な負担をかけることになる。


(2)医療現場で「懐胎」とは一般的に「着床」を意味し、法的意味と乖離がある。

 法務省は、医師に、受精の可能性のある時期の証明の証明を求めている。しかし「懐胎」すなわち妊娠の成立は、受精卵が子宮内に着床した時であって、受精の時ではない。排卵し受精しただけでは妊娠に必ずしも至らないからである。体外受精により受精させても、それが着床するまでは妊娠したとは言わない。

民法772条①は、婚姻中に妻が「懐胎」した子を夫の子と推定するものであるから、法文にしたがうなら、着床時期の推定が婚姻解消日以前にかからなければ、非嫡出子としての出生届は受理すべきである。

法務省の通達は、妊娠の成立に先立つ、受精の可能性のある時期を基準に、それが婚姻解消後でなければ救済しないとすることで、法律に無い嫡出推定を及ぼし、非嫡出子としても出生届出の範囲を狭めている。

しかし、着床の時を「懐胎」の時とするなら、懐胎の推定の始期は、推定排卵日から6日程度後の日とするべきである。排卵がなければ受精しないが、受精後受精卵が着床するのには、通常5~6日をようするからである。こうすれば、「懐胎」の始期は、現行の「算出根拠1」にある、推定排卵日前14日から、推定排卵日後6日へと後退し、多くの無戸籍児の出生届出が実父の子として受け付けられることになる。


(3)算出根拠1について

①CRL検査がうけられなかった事案が救済されず、証明できる医師を限定する不合理

 CRL検査値は、妊娠8週0日から同11週6日までの間に計測したものであることを要するとされるが、この間に産科医療にかかり、CRL検査を受けられない事案もある。離婚紛争を抱え、DVなど夫婦間に強い葛藤がある場合には、女性が子どもの妊娠と出産にむけた医療をきちんと受診できない場合は少なくない。

また、産婦人科医会の手引きの解説によれば、「懐胎時期に関する証明書」はCRL検査を実施した施設の医師によらなけらばならないこととされているが、妊産婦が転居したりして妊娠期間中に産科医が変わったり、病院の都合で産科が閉鎖される場合もある。このような場合に、計測された病院の産科医でなければ証明書が出せない、というのは不合理である。CRL検査を根拠に出生届受理に未知を開いたのは、CRL検査が医学的客観的に相当程度の信頼性があるという認識に依拠しているはずである。それならば、その検査数値は、産科医なら誰でも共有できる医学情報であって、その計測値をもとに別医が医学的見識に従って懐胎時期を証明することには何の問題もないはずである。別産科医でも可能な証明書発行事務を、CRL計測を実施した施設の医師でなければならないと限定することは、当事者が証明書を得る負担をいたずらに大きくするものである。


②CRL計測値の信頼性

 CRLの計測値により、「その胎児の妊娠相当週数を決定する方法は、妊娠の満了時期・正期分娩の時期を予測するために用いられる方法ではあるが、個体差も、計測に伴う誤差もある。すなわち、超音波断層撮影法による計測は、近年膣プローべの使用や画像精度向上により精度が向上しているけれども、計測に伴う誤差が完全に解消できたわけではないし、胎児の週数の判定に用いる標準値との個体差もあり、器械により判定される妊娠集数が絶対確実とはいえない。

他方で、誤差は一週間以内であるとの見解から、その2週0日の2週間前すなわち受精日の特定と、出産予定日を相当の確信をもって決定している医師も少なくない。そのような医師によれば、相当の確信を持って特定される受精日からさらに2週間もさかのぼって、懐胎の可能性のある時期を記載することには抵抗がある。通達では、推定排卵日に前後2週間の余幅を加えたことで、証明書を書く医師の負担感が軽減されることを期待したのかもしれないが、それは医師証明による救済の範囲を狭める結果になっている。

 このように分娩予定日を決定するための一つの検査データに過ぎないCRLの計測値だけに、子と母の夫との父子関係の有無決定という重要な法律上の効果を結びつけることはバランスに欠けると思われる。


③このように「1」は、科学的信頼性や整合性が十分でないのに、証明書の「算出根拠」の冒頭に位置づけられているために、多忙の医師が「1」によって機械的に証明書を作成している現状を改善していただきたい。


(4)算出根拠2 ~生殖補助医療で判明している精子提供者情報を無視する不合理

不妊治療に対して、生殖補助医療を行った際、医療機関は、精子提供者を厳格に管理し、医療記録にも記載する。したがって、生殖補助医療に用いた精子提供者が誰であるかを証明することは、医療機関の責任において可能である。子の父の推定に供する事実として、判明している精子提供者の情報ではなく、生殖補助医療実施日をもとに受精時期を推定する責任を負わせるのは、事実を迂回し、医療者に無用の負担を負わせるものである。


(5)このように医療者に理不尽な負担を負わせる結果、繁忙を極める医療者が証明書の作成を嫌い、あるいは責任だけを回避するために、推定排卵日をはさんで前後29日という科学的には意味の無い長期間を推定する「1」を選択して証明書を発行することになり、前夫の子どもでないことの証明を求める母親たちのニーズを数多く積み残し、無戸籍児の問題を解決できていない。


3. 現状に即し真に子どもの福祉を実現するための民法772条の抜本的改正を含めた親子法の整備

(1)現行772条による嫡出推定は、必ずしも、現実の父子関係の可能性の高さを反映していない。すなわち、離婚に至る夫婦では離婚成立前から破綻して性関係がないのが普通であるし、離婚後女性が他の男性と事実婚を開始した場合には、生まれた子どもの父が前夫である可能性は低い。それにもかかわらず、同条による強力な推定を及ぼすことは、関係者-子ども、母、母と家庭を形成して子どもを養育しようとする実父、さらには自己の関与もないまま前妻の出産した子の推定を受ける前夫に対して、多大の負担と不利益を負わせている。本来、法定血族は自然的血縁関係に基づいて、法的に承認保護される親族関係であるから、父子関係について推定規定をおくなら、自然的血縁関係が生じる可能性の高い順位によるべきである。


(2)また、現行の嫡出推定は、母の法律婚の夫からの嫡出否認によらない限り、覆すことが出来ない。しかし、真実の父子関係についてもっとも深い利害関係を持つのは子どもであり、子どもの方から、推定を破り、真実の父を確認する利益を奪う法制度は、いまや理不尽である。法律婚のもとで子どもが生まれても、それが配偶者間の子ではない場合は少なからず発生する(認知制度が法律婚をしている男性を排除していないのは、男性についても非配偶者との性関係を持つ行動を予定するものであるが、この傾向は女性も同じである)のであり、その当否に子どもは責任を有するものではないのであるから、子どもにも、母の法律上の夫との父子関係を争える道を開くべきである。



以上の次第で、自然的血縁に基礎を置く家族関係を、現実に即した合理的で、子どもの福祉を尊重した制度に改めるために、民法772条の抜本的改正を要望いたします。