私の頭の中で誰かが、
ガリガリと氷の塊を噛み砕いている。
窓ガラスの向こう側で、
雨だかミゾレだかわからないものが、
バラバラと蛇の目傘に当たる。
腹の中が走る車の音に
グチャグチャにかき混ぜられているようだ。
手も足も感覚が無くなり始めている。
時たま走る激痛だけが、
その存在を確認させる信号だ。
ベッドに押し付けられた背中から
ジワジワと体液が染み出していき、
体とベッドが一体となっていく。
気持ちだけは、両手を天に伸ばし
太陽の光が透きとおる手のひらに
その暖かさを感じる事も出来る。
ズブズブと体がベッドに沈んでいって、
全ての意識が存在と共に消え去っても
太陽が感じられるのなら
きっと許してももらえるだろう。
欲望への飢えを失った無気力の心に
笑顔を失った天使たちが舞い降り
無数に突き刺さった、錆びた棘を抜く。
悲しみの記憶すら今はいとおしく、
求めもしない優しさに怒りを覚える事も
今はもう疎ましく感じる。
あなたの目を通してみた私の恐怖は、
まだ何も感じられない未来の出来事。
凄まじい怒号と共に現われれば、
構える勇気ぐらい持っていても
何も見えない未来に待ち構えている
その時に到達する恐怖は、
笑顔の裏側に住み着いた
服のほころびを喰らう一匹の蛇。
閉じた瞼に映るカーテン越しの太陽と
少しだけ開けた窓の隙間から入り込む
頬に触れる冷たい風。
ずっと遠くでさえずり合う鳥たちと
きっと誰かを呼ぶ犬の鳴き声。
木の扉の向こう側の少し薄暗い廊下。
締めの甘い蛇口から垂れ落ちる水道水の
無味無臭の匂いが鼻を軽く刺激する。
随分落ち着いている自分を
もう一人の自分が感心して見ている。
本当は逃げ出す事も許されない状況で
全てを諦めた虚無感に支配されているだけ。
共通の価値観から遠く隔離されながら
純粋に求めるものなんて何も無い事に
驚きすら感じる事も出来ないほど
心の中が澄みきっていく事が自覚できだした。
ずっと遠くに有るだろう学校のチャイムが、
穏やかな日差しと風に乗って聞こえて来る以外、
何かしら特別な音は耳に入ってこない。
頭の中のラジオのスイッチが入って、
アルバート・アイラーのサックスが聴こえてくる。
笑う事も泣く事も出来ずに涙が溢れてくる。
私は今でも悲しみと恐怖を伴う生を
無と言う安楽を伴う死よりも求めている。