レストランから出てきてすぐに、彼女は自分の持ってきたCDをカーステレオのスロットに突っ込んだ。甘い歌声のR&Bが流れてきた。「暗くなるのを待っていたの」彼女は少し嬉しそうにそう言った。
私の耳には80年代風のラヴァーズ・ソウルに聴こえた。「良い曲だね、なんて曲?」そう聞くとJoeのBetter Daysと言うアルバムだと答えが返ってきた。私はJoeを知らなかった。
「こんな古い曲を聴くんだね」と言うと彼女のククッと抑えた笑い声が聞こえてきた。ハンドルを握りなおして横目で助手席を見ると、うつ向き気味で笑いを押し殺している色白の横顔が見えた。
「Kさん、これ新しい人なのよ。知らないと思った。」私を苗字で呼ぶ彼女は知らなかった事が少し嬉しそうだった。「Kさんが、古い曲で知らないのなんて無いでしょ。」彼女にとって私は世界の中心だった。
人が一人で抱えられる事なんて、そう多いものじゃない。自分の知らない事を知っているだけで、憧れたり尊敬したり出来るストレートな気持ちは美徳だが、危うさが付きまとうのも事実だ。
自分で自分の首を絞めるような事を繰り返してきた。単純な正義感は必死で自分を守ろうとする偽善以外の何物でもない事に気がついても、ヘッドライトの外側の暗闇に誓う言葉なんて何も無かった。
彼女はレストランで料理が出てくるのを待っている時からずっと、昼間の通り雨で汚れたおろし立てのサンダルの事を気にしているようだった。半そでから出た二の腕がチラチラと気になった。
昼間はそれほど気にならなかったが、運転しながら横目に見える彼女の淡いすみれ色のワンピースは、スカートの丈が少し短めな事も含めて、この時期には少々早過ぎる気がした。

