
桜の花もすっかり散ってしまい、裸になった枝には薄緑の小さな葉が、雨にうたれながら輝いている。足元のアスファルトに散った桜の花びらは、雨と泥でぐちゃぐちゃに汚れている。
ズボンの裾が濡れて気持ちが悪い。考えてみたら雨の中をもうかれこれ1時間近くウロウロしている。まだ3時だって言うのに薄暗くて、車もヘッド・ライトを点けて走っている。どこか肌寒い感じもする、もう一枚着て出れば良かった。
こんな日に飛び出した自分が悪いんだ。別にあいつが悪いって訳じゃ無かったんだけど、無性にムカついて、イライラして、じっとしていられなくて。
最近はいつもそうだ。顔を合わせれば、きまって喧嘩になる。なのにまた、どちらかが会いに行く。友達に悪態つくのにあいづちを打たれると妙に怒れたりもする。何度も何度も同じことを繰り返している。
傘を首でおさえながら雨で湿ったホープに100円ライターで火を点けると深く吸い込んだ。雨脚は少しも止みそうに無い。頭の中でアル・スチュアートのイヤー・オブ・ザ・キャットが流れている。少しだけ、情けない今の自分に酔いだしていることに気がついた。
熱いコーヒーが飲みたい。ポケットの中の雨でくちゃくちゃになった1,000円札を確認すると目の前の純喫茶と書かれたドアを押して中に入った。その中は外の暗さをより強調したような薄暗さだった。客はカウンターに座ったおばさんだけだ。おばさんのひざの上に乗った薄汚れたプードルが、コッチを見てウーッと低い声で唸った。カウンターの中にいる60はとうに越えたおばさんが面倒臭そうな顔で「いらっしゃい」と言った。入り口にある傘立てに傘を置くとボクは入り口に一番近い4人がけのテーブルにドアを背中にして座った。
「はい?」そう言って水の入ったコップと黄色いお絞りをおいたおばさんに一言「ホット」と告げた。返事もせずにきびすを返すと、そのままカウンターの中に戻っていった。カウンターの裏の棚の中に有るラジオがボソボソと音楽を流していた。ありきたりの白いカップに入って出てきたコーヒーは決して美味しいと言えるものじぁなかった。あいつの淹れるコーヒーの方がずっと美味いと思った。そう言えば、スティーブ・フォバートのLPをダビングしてくれるって言っていたな。
コーヒーを飲み干すと、まだ止みそうも無い雨の中に飛び出して、アパートに向かって歩き出した。もうすぐ20になるって言うのに少しも大人になっていない自分をこの雨と一緒に流し落とせたらと思った。
Al Stewart タイトル: Year of the Cat [Bonus Tracks]
Steve Forbert タイトル: Jackrabbit Slim