《2024年2月4日 改定》
三月ほど前、突然文具屋の母親がおかしな事を言い出した。
以前よりだんだんと衰えてきていた目が、殆ど何も映さなくなってきた頃だ。
誰もいないところに人がいると言ったり、動物が這っていると言ったり。
初めは、当の母親も気味悪がって毎日仏壇に向かって拝んでいたらしい。
「ですが、ある時、死んだ父が出てきたそうなのです」
「先代が？」
「はい。
父と話をして、そして悟ったのだそうです。
自分が見えているのは、死に人なのだと」
それから母親は見えるものを人に話すようになった。
聞いた人々がそれをまた人に伝え、評判になる。
そのうち我も我もと人が押し寄せ、店の前に長蛇の列が出来るようになったという。
「私も初めは母の暇つぶし位に、軽く考えていました。
ですが、段々噂が大きくなり、巫女のような扱いになってきて段々と恐ろしくなってきたのです」
「ほう…」
驚く様な話に、ヨンもチュンソクも相槌以上の言葉が出ない。
「それは…まことに見えるのか？つまり…その霊のようなものが」
チュンソクが尋ねた。
「わかりません。
ですが、母は昔からそんな力は全くありませんでした。
私には、おかしくなっちまったとしか…」
「なるほどな…」
チュンソクは頷いた。
「医員には見せたのか？」
「はい。
痴呆だろうと言われました。
特に治療法もない、と…。
痴呆だという噂が広がれば、今度はどれほど叩かれるかと思うと、気が気でなく…」
「そうか…
すまんが、こればっかりは何も力になってやれる事がないな…」
「とんでもございません！
ペ様にはいつもご愛顧くださり、感謝の言葉もございません。
さ、手前どもの話はここまでで…。
長々と申し訳ありませんでした、大護軍様、本日は何をお探しでしょうか？」
＊
その日の夜遅く、ヨンが帰宅すると、ウンスの部屋にまだ灯りがついていた。
そっとその扉を開ける。
「お帰りなさい！あなた」
「まだ起きていたのですか」
「ええ、ちょっと研究をね」
見ると卓の上に沢山の瓶が置いてあり、
中には白い粉状のものが入っている。
「なんの研究です」
「化粧品よ」
「けしょうひん？」
「これは白粉。
今市場に出回っているものより良いものを作って、医仙ブランドで一攫千金を狙ってるの」
「それは頼もしい。期待しています」
四年前に言っていたウンスの一攫千金計画はまだ続いていたのか、と少々驚きながらもヨンは笑った。
「イムジャ、これを」
ヨンは懐から筆筒を取り出すと、ウンスに渡した。
「なあに？」
「使いやすいと評判の筆です」
「ええ？筆？
わざわざ買ってきてくれたの？ありがとう！」
「チュンソクの行きつけの店だそうです」
「チュンソクさんの？
今度会ったらお礼を言わなきゃ！」
ウンスが嬉しそうに筒から筆をとり出し、眺めた。
その瞬間、机も下から白い塊が飛びだし、筆をめがけて跳躍した。
「ちょっと！ボンド！」
ウンスが慌てて高く手を上げた。
はい、ボンドになりました
これからよろしくにゃあ
【アメンバー募集のお知らせ】
先日、前のブログの中で他に読みたいお話がありましたら戻します、
と言いましたら、限定で公開していました【雪中のほととぎす】がダントツでした。
あの話は重くて暗い話で、とにかくしんどかった記憶がありますが、
苦労させられた子は可愛いといいますか、私にとっても一番思い入れのある話でもあります。
それに出来ればまだ寒い時期に読んで欲しい…ということで、
アメンバーを募集することにしました。
アメンバーについての考え方は、前のブログの時と同じなのですが、
今はまだ殆ど記事がないので、
この度は、
【ウンスの診療事件簿】を読まれて、いいねを押してくださっている方
でお願いしたいと思います。
今年は、この事件簿シリーズを中心に、最後まで終わらせるつもりなので、
これは外せない条件です。
今この記事を読まれている方は、きっと当てはまっているはず…ですが、
ご希望の方は、いいねのご確認だけお願い頂けると助かります。
メッセージに関しましては、
初めての方は、自己紹介のメッセージを送ってください。
以前のブログでアメンバーさんだった方は大丈夫です。(もちろん送って下さっても嬉しいですよ♥)
ただ、
承認出来ない場合もある事
と
確認作業に少々お時間を頂く事
をご了承ください。
期限は
２月６日 朝８時まで
とさせて頂きます。
どうぞよろしくお願い致します。
くぅ