「やりたいことって?」
「タイタニックよ」
「タイタニック?」
ヨンは首を傾げて考える素振りをしたが、
「そんなことでいいのか?わかった」
と快く頷いた。
じゃあ、とウンスが立ち上がる。続いてヨンも立ち上がった。
「……何やってるの?」
「だから…タイタニックだろ?」
ヨンがウンスの背後に立ち、腰を掴んでいる。
「ちっがーう!!」
ウンスがヨンの手を振り払う。
「何だ、違うのか、変な頼みだと思った」
「爆弾酒よ、爆・弾・酒」
「爆弾酒?!」
「知らないの?タイタニック酒」
「それは……知ってるけど!
どこで覚えてきたんだ、そんな飲み方。まさか外でやってないだろうな?!」
タイタニックとは、ジョッキのビールにショットグラスを浮かべ、その中にアルコール度数の高いソジュなどを入れていき、沈ませた者がそれを飲むというゲームだ。
「やってない(と思う)わ」
多分、こっちのウンスは。
「ならいいけど……あれ、キツイぞ?大丈夫か?」
「大丈夫よ、やってみたかったの。いいでしょう?」
「…まあ、酔ったら俺が介抱してやればいいか…」
普段お酒をあまり飲まないウンスが勝つはずがないと思っているようだが、実はこのウンスにとって爆弾酒など日常だった。
キチョルにも作ってやったことがある程なのだから。
「わかった。それで許してくれるんだな?」
「ええ」
なんのケンカか知らないが、どうせ大した事じゃない。
遅かれ早かれ許されるはずだ。
これ以上怪しまれる前にヨンを酔わせてしまえ、としか考えていない。
ヨンがにやりと不敵な笑みが浮かべる。
ウンスもニヤリと笑う。
そして二人の前にグラスが置かれた。
「ちょっとぉ〜!ずるしたわね?!」
「してないって」
正直ウンスにとって、このゲームはお手のものはずだった。
だが、敵もさるもの引っ掻くもの、中々に強い。
今のところ勝敗は…互角といったところか。お互いに5、6杯は飲んでいる。
さすがのヨンも少し顔が赤い。
ウンスに至っては随分酔いも回り、もう思いっきり地が出まくっている。
「ウンス、かなり飲んでるが大丈夫か?」
「大丈夫、全然平気!」
「それにしても…随分慣れてないか……?」
「……え?」
「まさかと思うが…怪しげなパーティなんか、行ってないだろうな?」
怖い顔でウンスを覗き込み、念を押すヨン。
怪しげなパーティ……
ウンスの頭に今朝見つけたコスプレの箱が浮かんだ。
そっか…
こうやってここのウンスさんもヨンにやりたいこと制限されてるわけだ…
パーティでさえ禁止なら、コスプレなんか絶対に許してもらえないに決まってる。
だから隠してたのね……気の毒に…なんだか人ごとじゃない。
勝手な思い込みからウンスのトンチンカンな想像がどんどん膨らんでいく。
再びウンスの頭に閃きの鐘がなった。
任せて……ウンスさん!
私…あなたのささやかな楽しみを認めさせてあげる!
「ねぇ、せっかくだから勝負しない?」
「勝負?」
「負けたら勝った方の望みを聞くの」
「望みを…きく?」
その言葉を聞いた瞬間、ヨンの目がきらりと光った。
「ウンス!押すんじゃない!」
「これはそもそも罰なんだから、ちょっとくらい忖度しなさいよ〜!」
「ゲームに忖度なんて聞いたことがない!」
二人とも勝負事に熱くなるタイプなのだろう、夢中でショットグラスにソジュを注ぐことに熱中していた。
先に十杯飲ませた方が勝ち。
途中で酔い潰れたら、その時点で負け。
そういう約束だ。
ちょいちょい行われるウンスの不正により、今は彼女が優勢だった。
「ウンス、大丈夫か?」
「ぜんっぜん大丈夫〜あと一杯で私の勝ちよ〜!」
大分目が据わっているウンスをヨンが気遣う。
高麗に行って馬鹿な飲み方をしなくなったせいか、昔より粘りが効かなくなっている。
だが、ウンスの思いは折れていない。
コスプレ上等!何が悪い!コスプレイヤーにも人権を!
酔っ払いの頭の中は微妙に主旨がずれているようではあるが………。
「もうやめておいた方が…」
「えぇぇ〜ここでぇ〜?」
「だってもう…限界だろ?
俺が負けでいいから。ウンスの望み、聞いてやるからもうやめよう」
いつもと違う弾けっぷりに心配したヨンがついに譲歩した。
「ほんと?
…じゃあ…まぁ、仕方ないから引き分けってことにしてあげてもいいわよ…
私もちょっと…アレしたし…
お互いの望みを聞くってことでどう?」
ズルをした引け目から、ウンスもまた譲歩することにした。
「いいのか?俺の望みはアレだぞ?」
「………………アレでしょ?」
アレってなにかしら?
まあいっか、ヨンがウンスに変なことするはずないもの………
「いいわよ」
簡単に請負うウンス。
それが後にどんな事態を引き起こすことになるか…それを彼女が知ることは永遠にない。
「そうか!」
小さくガッツポーズをしたヨンが、ウンスに抱き付こうするのを彼女はぐいっと押し返す。
「ちょ〜っと待った!まずは私の望みよ」
「わかった。何?」
ウンスがよろよろと立ち上がる。
「あれれ」
「大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫、ちょっとだけ待ってて。いい?私の趣味を披露するわ」
ウンスはそういうと、ふらふらとベッドルームに入っていく。
「覗いちゃダメよ〜」
そしてウンスは扉を閉めた。
最終回は明日か明後日、同時にアップします。
お楽しみに〜