ウンスの診療事件簿 10 【幽霊編①】 | 壺中之天地 ~ シンイの世界にて

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韓国ドラマ【信義】の二次小説を書いています

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《2024年 1月29日  改定》


開京の南に位置する南大街。そこは商人たちが集まっている所だ。

その一角に、一軒の文具を扱う店がある。

小さな店ではあるが、この店の主人が作る筆は非常に書きやすく長持ちすると両班の愛好者もいて、細々ではあるが商いは順調だ。

とはいえ、客など一日に十人来ればいい方…そんな店に長蛇の列が出来ていた。

 

 

「なあウンニョ婆さん、どうだい?

おれの母ちゃん、いないかい?」

 

一人の若い男が店先の老婆に向かって両手を合わせている。

 

「…あぁ いるね。

懐かしいねえ、イネさん、一年…いや二年になるかねえ…

ほらお気に入りの青い衣、あれを着てあんたのここに立ってるよ」

 

老婆は目の前の男の肩を指差した。

 

「やっぱり側にいてくれたんだ…!

おれ母ちゃんに聞きたいことがあったんだよう…なあ母ちゃん…おれ今迷ってるんだ、今度の作付けの割合なんだけど、大根と白菜の…」

 

「ちょっと待ちな…!」

 

ウンニョ婆さんは男の言葉を遮ると、暫く黙って頷いていたが、やがて男に向かって話し出した。

 

「お前の聞きたいことはいつもどうでもいいことばかりだ。

いい加減自分で考えるか、嫁をもらって嫁に聞いてくれ、でないといつまで経っても成仏できやしないじゃないか…

あんたの母ちゃんがそう言ってるよ」

 

「そんな事言わないでくれよ、母ちゃ〜ん!!」

 

ウンニョ婆さんの手に縋って泣きつく男を、後ろの男が無理やり引き剥がす。

 

「終わったんなら、もう帰れよ!

婆さん、次は俺だ、死んだ父ちゃんに大事なことを聞くんだよ!」

「ちょっと!!私が先並んでたんだよ!」

「俺は三日前からずっと来てるが一回も見てもらったことがないんだぞ!」

 

とんでもない騒ぎである。

そこへ、店の奥から主人と思われる男が出てきた。

表情からして、かなり苛々しているのが見てとれる。

 

「おい、あんた達、仕事の邪魔だ!

何も買わないなら帰ってくれ!」

 

怒鳴られ、追い立てられながら人々は仕方なく散っていく。

 

「勘弁してくれよ…集中して筆が作れやしない!

注文が入っているっていうのによ…」

 

文句をいいながらも、労るように老婆を立たせると、手を握って奥へ連れて行く。

どうやら老婆は目が不自由な様子だ。

 

「なあ…母さんもいい加減にしてくれよ…

目が見えなくなって、落ち込んでるだろうと思ったから多少は目を瞑ってたが、

あんまり適当な事ばっかり言ってっと、役人さんに連れて行かれてしまうぞ?」

 

「嫌だ、怖い事言わないでおくれよ…!

適当な事って言れても、わたしゃほんとに見える事しか言ってないんだけどねえ…」

 

「全く、急にボケちまったのかね…困ったもんだよ…」

 

息子は母親の言葉を妄言だと思っているらしい。

心底参った、というように首をふった。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

処変わって、チェ家の屋敷。

 

チェ家の奥方でもあり、医仙でもあるユ・ウンスが部屋で書を読んでいると、女中のスミが茶を運んできた。

 

「奥方様、そろそろ休憩なさってはいかがですか?」

 

「ありがとう、スミさん。一緒にお茶飲まない?」

 

「ありがとうございます。では少しだけ」

 

屋敷の主人と使用人が一緒に茶を飲むなど、普通ではありえないが、この屋敷の中では特別変わったことではない。

初めは誘われる度に、遠慮して断っていたスミだったが、次第に…というか、案外早く、ウンスの一風変わった、高麗の常識に捉われない考えに慣れて行った。

元々の性格がウンスと似て、明るく楽観的だったのが合ったのだろう。

その辺りの人選は、さすがチェ尚宮というところだ。

 

「奥方さま、近頃の市井の噂をご存じですか?」

 

「なになに? どんな噂?」

 

早速スミが面白そうな話題を持ち出すと、ウンスはすぐに食いついた。

 

「今市井では、死んだ者や妖が見えるという婆の噂で持ちきりなのでございます」

 

「へえ、霊能者ってやつかしら?」

 

その類の人たちは現代でもいた。

身近に会った事はないけれど、テレビでは見たことがある。

いつの時代も、皆こういった話題が大好きだ。

 

「本当なのかしら?」

 

「それが、とんでもなく当たるそうでございますよ!

死んだ者と会話したり、言葉を伝えるそうで、なんでもその老婆の前に長蛇の列が出来ているとか…」

 

「へえ…」

 

ウンスは曖昧に相槌を打った。

話としては面白いと思うけれど、正直、信じているかどうかと言われれば微妙だ。

科学的根拠がないものに関しては、まずは疑ってしまう。理系人間の性である。

 

その時だ。

机の下から白い塊が跳ね上がってウンスの膝の上に乗った。

 

「ぎゃっ」

 

スミが驚いて奇声を上げる。

 

にゃあ〜

 

ウンスの膝の上で甘えて鳴いているのは先日の白猫だ。

ヨンが何度追い出しても戻ってきて、未だにチェ家に居座っている。

ウンスのいい遊び相手だ。

 

「なあに?あなたこの茶菓子を狙ってるの?」

 

みゃあ

 

「お腹空いてるんでしょうか?」

 

「そうかも、鼠なんか食べちゃいやだわ、スミさん何か余り物ないかしら?」

 

「ご飯の残りがありましたから、あれに汁をかけて持ってきましょう」

 

「そうね、お願い」

 

んみゃあ〜

 

さすが猫界のジェームズ・ボンド、

この屋敷の女達は既に陥落されてしまったらしい。

ウンスの胸に抱かれながら、白猫は満足そうに喉を鳴らした。



 

 

 

 

 

前回のお話で、『このままチェ家にいそう』というコメントを頂き、

あ、それありかも、と採用させて頂きました!

コメントくださった方にそんな意図があったかどうか…?(あったっぽいけど?)

でも、こういう事ができるのは、書き直しならではのワザびっくりマーク

ありがとうございますほんわか

 

そしてこの【幽霊】、オチ以外、全て書き直しています

 

実は、この診療事件簿、一つ一つは独立した話ですが、全体で一つの事件となってまして、

最後にその事件を解決しようと思っていたんです

その伏線は、前から入れてたんですが、もっと具体的に入れていくつもりです

そして【血】まで再掲載した後、最終話を書いていこうと思っています

頑張ります!!

 

それから皆さんにお願いです

 

猫の名前、どれがいいですか?

 

ジェームズ(ジェームズ・ボンドから)

 

シャーロック(シャーロック・ホームズから…ホームズはさすがにあかんよね、白猫ホームズ…あり?)

 

ワトソン(ウンスの助手として)

 

コナン(一番有名な名探偵ってコナンなんですって!!)


あと、ポワロ、コロンボ…


何にもひねりのないアイデアですが、

猫の名前までひねらんでいいびっくり

名前考えるの、大キライですゲロー

他にもいいのがあったら考えて貰っても構いません


ではでは、アドバイスよろしくお願いいたします〜