ウンスの診療事件簿 4【猫編④】 | 壺中之天地 ~ シンイの世界にて

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韓国ドラマ【信義】の二次小説を書いています

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《2024年1月20日 改訂》


場所は変わって此処は迂達赤兵舎。

 

普段であれば非番の隊員達がふざけて騒いでいたり、惰眠を貪っていたり、雑然とした空気が流れているはずなのだが、今日に限っては人気が殆ど無い。

そんな中、突然兵舎を揺るがすような怒号が響き渡った。

 

「何?!逃がしただと!!?」

 

その声の主は、この国の大護軍、チェ・ヨン。

高麗にチェ・ヨンあり、と国外にまで噂される勇将である。

この男、平素は滅多矢鱈に激昂する質ではないのだが、ここぞという時に放つ殺気は凄まじく、

部下の間では鬼の異名を持つ。

そしてその鬼の前に頭を垂れているのは、迂達赤の隊長チュンソクと副隊長のトクマンであった。

 

「はっ!

ただいま手の空いている迂達赤を総動員して捜索していますので…もう少しだけお待ち下さい!!」

 

チュンソクが頭を下げると、トクマンも滝のような汗をかきながら、大きな体を縮こませ更に深く頭を下げた。

 

「私の失態です。大護軍、本当に申し訳ありません…!

やけにすばっしこい奴でして…つい、この手からするっと……

無論処分は覚悟しております……」

 

「報告が済んだらお前はさっさと探して来い!

処分の話は見つかってからだ!」

 

チュンソクがトクマンの尻を蹴る。

 

「はっ!すみません…!

必ず、必ずやあの猫を見つけて参ります〜!」

 

トクマンは全速力で駆けていく。

副隊長になった今も、この二人の前ではいつまでも新人気分が抜けない。

 

事件のあらましはこうである。

元に忍ばせていた密偵がある情報を猫の首輪に忍ばせ、猫売りへ託した。

その猫売りが王宮までやって来たはいいが、受け取るはずだったトクマンが、うっかり猫を逃がしてしまったというのだ。

 

「まだ王宮内からは出てはおらぬだろう。

白い猫だと言ったな?

衛兵に話し、見つけ次第捕獲するよう伝えろ」

 

「何と申せば良いでしょうか」

 

「チョナに献上するはずだった貴重な猫だとでも言っておけ」

 

「木天蓼(マタタビ)でも撒いてみますか」

 

「それは効くのか?」

 

「さあ…おそらくは…」

 

「木天蓼(マタタビ)でも鼠でも何でも撒いて構わん、とにかく早急に捕らえろ。

良いな?!」

 

「はっ!」

 

チュンソクが出ていくと、ヨンもまたすぐに部屋を出ていった。

大っぴらにはしたくはないが、禁軍にも協力を要請しなくてならないだろう。

それから叔母のところへ行って武閣氏や女官にも捜索を頼もう。

そして…

 

ヨンは思わず舌打ちをした。

 

今日はウンスの初出仕の日だ。

今日くらいは共に帰り、夕餉を食べながらゆっくり話が出来ると思っていたのだが、この様子では叶わないだろう。

彼女に今日も遅くなることを伝えねば……。

 

ヨンは鬱憤をぶつけるかのように、足元の石を思い切り蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

一方、再び坤成殿へ戻ったウンスは、チェ尚宮に取り次ぎを頼み、早速呼びだして貰った。

 

「叔母様!」

 

「如何した?忘れ物か?」

 

「いえ、女官さんの中に労咳の患者さんが出たって聞いたんですけど、本当ですか?」

 

「ああ、まことだ。

まだ入って半年にもならぬ見習いの娘だ。

ひどく咳をすると言うので、先だって市井の医員に診てもらったら、労咳だと分かったのだ。

里の縁者に労咳の者がいたことを隠していたらしい」

 

「その娘さんはどこにいるんですか?」

 

「今は隔離している」

 

「その娘さん、きちんと治療受けてますか?。

診させてもらいたいんですけど」

 

「何を言う?! 

労咳だぞ?そなたに感染ったらどうするのだ?!」

 

当然チェ尚宮は首を横に振る。

 

「叔母様、私、天界で労咳の治療にも関わったことがあるんです。

適切に接すれば、伝染る訳ではありませんし、その方法もちゃんと知っています」

 

「だとしても、もう外へ出すことが決まっている娘だ。

やれる事は何もあるまい。

そなたの気持ちは分かるが、そなたは王妃様の侍医なのだぞ」

 

王妃様の名前を出されれば、ウンスも言い返せない。

後ろ髪を引かれながらも、引き下がるしか無かった。