ここ最近、お客様方から
---金魚生体の新入荷は無いのか?
という趣旨のご質問がかなり増えている。
常連様の中には「入ったら必ず買うので連絡をください」とおっしゃって下さる方もいらっしゃる。
こんなに有難いことはなく、いつもそう言ってくださる皆様に、心の中で手を合わせて感謝している次第である。
ここ数年、入荷が愛好家物に偏り、コンディショナーの販売を行ってからとみに生体入荷が少なくなった。
私達は金魚屋なので、何にもまして金魚を扱わねばならないという欲望と義務感は常に持ち合わせている。
これはひとえに「手がさけない」「時間がとれない」という部分であるのだが、ここには2つの側面がある。
一つとしては、皆様のイメージ通り、コンディショナーの製造や治験等に時間を奪われ、問屋に行く時間的余裕がかなり少なくなった、というものである。
そしてもう一つの側面、それについて皆様どれほどお気づきかわからないのだが、それについて紐解いてみる。
いつからであったのだろうか。
問屋で良い魚を見つけたとき「症例は要らないから!」「今もう満床だから無理!」「誰が治すと思ってるんだ!」等、ギスギスした会話がなされるようになったのは。
思い起こせば既にこういうやりとりは7年前には始まっていたようにも思う。
すなわち、墨田に居た頃から、である。
問屋の魚、それはパンドラの箱に等しい。
確実に「何か」をひっかけ、そして病期は初期を終え中期に移行しているものがほとんど。(ぱっと見はわからない)見立てを誤ると、中期は簡単に終末期・死前期に転落をし、自らのみならずお客様にすらご迷惑をかける、美しくもおぞましき金魚達・・・・・。
金魚は人の血を吸って赤いのだ、と真顔で問屋の若い子達を脅すのが趣味であった時期もあるが、これは脅し文句ではなく、本当にそうなのだと今でも確信をしている。
入荷した金魚が全て正常に販売をできる保証は一切無い。下手をすれば全滅=フルロスということも決して珍しくはなかった。幾多の仲間の店が閉店をし、行方不明になった友人も少なくはない。外国に高跳びをした友人すらいる。S君・・・君は今どうしているのだろう?偶に君の夢を見る。Cさん・・・最近連絡無いよ?AK、君は未だ法螺を吹いているのか?実家を売り払い市営住宅に匿われたあの方は、家族とはうまくいっているのだろうか?etc etc....
このころはまだすべてのコンディショナーが脳内から外に出てこない状態で、使えるものはストラジと調整剤程度であった。
そして各種コンディショナーが完成した現在。
診断方法も多岐にわたり、ほぼ初期中の初期で疾病兆候はキャッチできる。それは自分たちが自己防衛の手段として確立したものだ。
受け入れ体制と立ち上げ率などは100%とは言わないが、それに近い確率で床上げさせることは現在では可能である。
ここで、先に申した私達も金魚屋である、という言葉を思い出してほしい。
金魚屋である以上、金魚生体を入れたいという欲望と義務感は突出して強い。誰だって良いらんちゅうや土佐金、地金、なんきん、中国一点物、川原氏の金魚などなどなどなどを仕入れ、お客様に披露したい!それは当然である。
はっきり申し上げて微力ながら昔は率先してそれをやっていたつもりである。
そしてそれらを買う資金も当然の如く別として考え、いつでも出せるストックはしている。だからこそ、貧乏に拍車がかかる。
お客様に急斃死&急疾病のご迷惑をかけることが格段に減少した。それは非常に良いことであった。
しかし、別なご迷惑が今現在進行形でお客様にかかってしまっている。コンディショナーは常に品薄で、最近は想定外の欠品が出ることが頻発している。
現在、通常便の納品は余裕を見ると6週間にまで伸びている。
お待ちいただいているお客様がいる状況で、弊店は自家用にコンディショナーやオリジナル飼料を使うことはできなくなってしまっている。まさに「紺屋の白袴」というやつである。
切実なことを申し上げると、キープ個体が急斃死した場合、お客様にコンディショナーの納品を優先させた為に手当が物理的にできなかった、という側面が少なからずある。
この状況下に於いて魚を問屋や愛好家諸氏から定期的に世間一般的な水準で入荷した場合、どうなるのか?カンの良いお客様ならご理解をいただけるであろう。
弊店はトリメンに約1か月かける。それ以下の時間であれば、必ずコンディショナーをサービスで添付し、ご購入されたお客様がすぐに対応をできるようにしている。
金魚の場合、そのぐらいかけなければ潜在的に持っている疾病は叩きつくせなく、安心してお客様のお手元には届けられない。(コンディショナーが無い昔の話はご容赦いただきたい)
例えば、プラ舟180(160ℓ程度)を使い、入荷魚をトリメンした場合に起こることとして、以下の概算は基本となる。
1)養生期間1か月、水換え回数最低で4回程度、入れ替え水量は約320ℓと見込む。
2)入荷魚の疾病は平均して中期と想定する。
3)必要なものは
・レッドスタースメルチ5倍(最終)
・グラナータ3倍(最終)
・ブラモス5倍(最終)
・ストラジ、高硬度を保つため2リットル程度
・BOCTOK1及び2 尾数にもよるので、基本として1は600g、2は200g程度
4)概算として
・レッドスタースメルチ
(160+320)×5=2400ml
・グラナータ
(160+320)×3=1440ml
・ブラモス
(160+320)×5=2400ml
※参考売価 http://katsumishouten.jp/m/krasnyizvezda.htm
これが、プラ舟1枚毎に追加で必須となる。このほかに人間一人が拘束され、電気代・水代も当然かかる。
自営なので人件費をゼロとして考えても、プラ舟180を1枚毎に最低限これだけのものが出ていく。大概の場合、3種混合では収まらず、カラシニコフやその他治験薬がグラナータと同量出ていく。
弊店は水槽をフルで使った場合、水量はまちまちだが約70本ある。そこに金魚を新入荷として常に満タン状態とした場合、現状のコンディショナーの生産はどう頑張っても1種類あたり6リットル前後なので、完全に自家用だけでバーストをする。すなわち、お客様に全く回らないということになる。
それでも頑張って金魚生体を主体として徹した場合、金魚生体にかかる経費は上記の通りとなり、決して安い金額ではなくなってしまう。
それでも経費を載せて販売をすると何が起こるか?
「高い」「たかが●●金魚で」「**では---円だった」
比較されても困るのだが、するな、というほうがおそらく無理なのだ。
この現状をご理解いただけないということが一つある。
金魚生体を扱いたくても、現状の生産量では自家消費ができないので、扱えないのだ。
これを適当なトリメンで済ませるならば、話は簡単である。
例)塩・緑・青・黄色・白い結晶・透明な液体等々、適当に混ぜ2~3日、長くて1週間ぐらい様子を見るだけで後は祈る。33度昇温を症状に関係なく行う。現状の水道事情など無視し、ただただ水換えをしろと指導するetc etc etc....(トリメン・治療と称した民間伝承を言い出せばきりがない)
それならばやってやれないことはなかろうが、気持ちがついていかず、おそらく鬱になってつぶれてしまう。結果はわかりきっているのだから。
長々と何が言いたいのかというと、何故新着魚が最近めっきり少なくなり、皆無なのか?ということについてのご返答である。
つまり、魚を以前のペースで入れた場合、コンディショナーはほぼ全て自家用となり、お客様には即納といえども回らなくなる。その結果起こることは、魚にもお客様にもひどい迷惑となってしまう。
このような事情もあり、私達は泣く泣く生体を扱えないのである。
はっきり言ってバンバン新着を出せる他所様がうらやましい!
私達は金魚普及ということについて「病気を治し、斃死魚を最小限にすること」が最も近道でまっとうな方法であると信じている。
治せる手法を確立することが、金魚を普及し未来につなげることと本気で信じている。
その魚はうちから出たものに限定する必要はない。
すべての任意の状況で入手された「お客様にとっての一尾」が生きなければ、全く意味はなくなるのだ。
長くなったのでこのへんで終わりにしたいが、最後に一言苦言を呈したい。
これは金魚を扱うことを生業とする他所様に申し上げる。
--窒素三態ぐらいお客様に教えてください。
--飼育の基本は最低限の「常識」としてお客様に伝えてください。
多くは望みません、もうこれだけで結構です。
飼育相談に於いて、この点からご説明をしなければならないことがお客様にも魚にもそして私どもにも時間のロスであり、治療の遠回りが起こり、助かるものも助からなくなる事例となってしまいます。
これをお読みいただいた他所様は、今すぐ実施していただきたいと切に望みます。
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金魚生体と時間