「水」には、空気に比べて、いくつかの特異的な性質があります。

この「水」の性質は、あたりまえすぎてとかく忘れがちになってしまうものですが、

約束事として、覚えておいて戴きたいことがあります。


1)水は多くの化学物質を溶かす

2)水に溶けたものは、際限なく拡散する

3)水に油は溶けない


この3点です。


金魚に限らず、水棲動物を飼育する上で、この3点は重要な要素となります。


金魚を迎えるにあたり、多くの場合、私たちは飲用水を飼育水として準備します。

飲用水とは、人間が飲んで問題が起きないよう、多くの場合は塩素が入れられて、不純物を取り除かれたものを指します。

ミネラルウォーター等、ある物質群が突出して高く含有されているものが販売されておりますが、

蛇口から出てくる水は、それらの物質群を除去ないし低濃度に調整したものです。

あたりまえのことですが、飲用水とは、塩素以外殆ど何も入っていない水のことを指しております。


それでは、金魚が生産・累代飼育されている水とは、どのような水なのでしょうか?


先だってNHKで弥富の風景が報道されました。

ご覧になられた方も多くいらっしゃることと存じます。

あの美しい金魚の田園地帯の風景は、日本のみならず世界の金魚愛好家にとっても、誇るべき景観ではないのでしょうか?

私たちは良く「○○の泥池の~」という言い回しをするのですが、

まさに「泥池」というのは、底が土であり、膨大な植物・動物プランクトンが活動をし、豊潤な土壌ミネラルや酸素が溶解し、一掬いの水の中にも無数の生命がうごめく世界を指します。

また、コンクリートで造られた「たたき池」というものも御座います。

長く使い込まれたたたき池は、コンクリートの微細な凹凸の中に、しっかりと微生物が根付き、常に微量のカルシウムが放出され、季節によっては膨大な植物プランクトンが青水となり、泥池に劣らない生命あふれる世界が形成されます。


金魚は上記のような環境下で、針仔から黒仔になり、やがて色彩豊かな成魚へと成長し、出荷されて、私たちの水槽にやってきます。


金魚が育った水というものは、決して飲用に適したものではありません。

泥池の水を口に入れると、先ず苦味がたち、妙な匂いが鼻に残ります。

青水に至っては、海苔の煮出し汁を飲んでしまったような不愉快さが残ります。

そして、双方、腹を下す原因になり、場合によっては長引いて医者にかからなければならなくなってしまいます。

人間が飲用してはならない・するべきではない水で、金魚は成長しているのです。


飲用水と金魚が育ってきた水には、このように非常に大きな隔たりがあります。

ごく簡単に考えても、水槽という閉鎖空間に於いて、ただ水道水を中和した水で金魚を飼育される事が

いかに矛盾しているかがお分かり戴けるかと思います。


もし、入手された金魚を切花のように観賞されるだけであれば、

水道水を中和したものに金魚を入れるだけで良いのです。

しかしながら、偶然生き残ってしまった、ではなく、「意図的に」長期間水槽飼育を続けるには、

金魚が今まで育ってきた所の環境に飼育水を近づけてゆく必要が出て参ります。


水道の水をため桶に入れて、中和剤を入れると、塩素が除去されます。

その水を「さら水」といいます。

その時点で、決定的に不足しているものは以下のものとなります。


・酸素

・細菌類

・土壌ミネラル

・プランクトン


よく飼育書では、一夜以上エアレーションをしておいた水を使ってください・・・等々言われているのですが、

それは、

・酸素

・細菌類

を補う為です。


殆ど無菌状態の中和水にエアレーションをかけると、空気中から酸素と細菌類が入ります。

それは、時としてあまり好ましくない病原菌の類であったりするのですが、

同時に「硝化細菌」と呼ばれているものを水中に取り込む重要な手順であります。


細菌には主に、

・好気性(酸素を吸って活動するもの)

・嫌気性(酸素以外のものを吸って活動するもの)

の2種が御座います。

一般的に、好気性の細菌にはあまり病原性のものはありません。

むしろ、魚を入れた後に水槽の中に定着してくれなければ困るのです。

病原性の嫌気性バクテリアが混入しても、豊潤な溶存酸素があれば、嫌気性バクテリアは生存できませんので、エアーの強さはとても重要なポイントになります。


土壌ミネラルは、地域によっても非常に偏りがあり、これを入れればOK、とはいえないものです。

多数の物質が検出され、これだ、というものは御座いません。

ただ、突出して検出される成分は、元素周期表の1Aと2Aの群にある

・カルシウム

・マグネシウム

・ナトリウム

・カリウム

になります。

他にも、金魚に必須な微量元素が存在し、それらのものが足りなくなると、さまざまな病態で欠乏症を起こします。(詳しくは後述いたします)

ナトリウムは塩を入れれば補うことは容易ですが、入れすぎてはなりません。

カルシウム・マグネシウム・カリウムは、牡蠣殻を入れることで、ある程度はカバー可能です。

(牡蠣殻・サンゴ砂等を投入する意味合いも後述いたします)


ため水にエアレーションをしている段階では、塩はまだ入れてはいけません。

それは金魚の体の性質の問題が関係して参りますので、その理由は後述いたします。

エアレーションをかけている段階で牡蠣殻を入れておくことは、金魚を迎える為の準備として非常に有効な方法です。


長くなりましたのでこの辺りに致しますが、金魚を迎える前の段階でも、しておくべきことは多々ございます。

水道水のみで確実な長期安定飼育を行うことが困難であることをご理解戴けましたら幸いです。


注)金魚は品種間、または個体間にて、その強弱に多大な差異が御座います。

どのような飼育法によっても、生き延びてしまう個体というものがおります。

金魚の世界には「死に残り」という言葉があり、全滅して当たり前の環境下でも、死ねない個体もあるものです。また、「死に残り」の逆もあり、理解し難い死に方をする個体も多く御座います。

今書いたことは、飼育者各々の飼育観や手法により異なってきてしまうことも多々御座います。

その点を十分ご理解の上、お読みいただければ幸いです。