63〜65年にかけての録音。ドヴォルザークのスラヴ舞曲集全曲です。セル指揮のクリーヴランド管弦楽団。晩年のドヴォルザーク交響曲第八番をはじめ、セルのドヴォルザークは日本人には馴染みが深いものが多いでしょう。強力なオーケストラ・ビルダーであったセル。クリーヴランド管弦楽団を鍛え上げ、アメリカ屈指のオーケストラとしました。ヨーロッパのオーケストラに聞く低重心の弦楽器セクション。ワルターはアメリカの地で解放弦の安易な使用を戒めました。音楽の面では新興国であるアメリカでは機能性が尊ばれたのでした。セルはアメリカのオーケストラが得意とする管楽器の巧みに加え、弦にも精妙を求めました。主にウィーン古典派をレパートリーの中核にしていたセル。端正な表現の中に形式の美しさが際立っていました。ロッシーニの推進力、ドヴォルザークの音楽の土臭さ、精緻なR.シュトラウス、合奏力でまとめたマーラーなど、端正を超えたものがあります。スラヴ舞曲も交響曲とは異なるセルの一面を見ることができるものでしょう。スラヴ舞曲集はもともとピアノ連弾のための作品です。ブラームスのハンガリー舞曲集とは異なり、スラヴ舞曲は全編がドヴォルザークの手によって管弦楽化されました。さほど大きい響きを求めていない編成なのによく鳴る音楽です。交響曲とは異なり、民族性が前面にたった作品です。土属性を受けて、古くターリヒ、アンチェル、ノイマン、コシュラーといった演奏に加え、クーベリックも舞曲を聖なるものとみなしていました。同時に、巧みな管弦楽化は、一曲いっきょく個別の世界を築いています。セルの演奏は時に強奏を奏で、娯楽音楽に近い音楽からも舞曲的な世界を引き出します。セルは管楽器奏者の巧みにも、突出した響きを嫌いました。アンサンブルの中での独奏のバランス。セルは自分だけが、そのバランスを捉えているものと任じていたのです。

 

セルのスラヴ舞曲は、時に荒々しく、同時に計算された上での響きとなっています。民族性があったとしても、すでに国際的な音楽です。新世界交響曲にとどまらず多くの演奏が存在して良いはずです。リズムは高揚し、まとまりのある合奏の力。娯楽作であると同時に、音楽の聖なるものを引き出しているように聞こえました。

 

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