ストラヴィンスキーの春の祭典。58年、ニューヨークフィルとの間で鮮烈な演奏を展開したバーンスタインの72年、ロンドン交響楽団との再録音です。前回の録音はニューヨーク・フィルの首席指揮者となった年でした。アメリカ人の指揮者としては史上初のこと。アメリカは自国で育まれ演奏家で類まれな資質を持ったものを見出すことができたのでした。指揮者としてだけではなく、作曲家、ピアニスト、周囲に照射する音楽の啓蒙の力でも知られていました。首席も当初はミトロプーロスとの両頭体制です。作曲も行うバーンスタイン。ストラヴィンスキーの音楽は、二十世紀から現代に連なる歴史が強く意識されていました。現代音楽に適性を示したミトロプーロスの影響も強く受けています。コロンビア・レコードにはストラヴィンスキーの自演もありましたし、ブーレーズの細緻なところにも配慮が及んだレコードもあります。一般には禍々しいジェケットでも知られる58年盤を推す声が大きいでしょう。すでにオーケストラを完全に把握し、二十世紀の古典ともいえる作品から、新たに衝撃を引き出しています。ミトロプーロスとの間に軋轢のあったニューヨーク・フィル。アメリカ生まれのスターに道が開かれることにもなりました。72年盤はニューヨーク・フィルの音楽監督を離れ、自由な立場で客演を展開していた時代です。ロンドン交響楽団も演奏を展開していた管弦楽の一つでした。ストラヴィンスキー作品ではペトルーシュカ、詩篇交響曲、プルチネルラ、結婚といった作品も射程にありました。火の鳥は全曲盤ではなく1919年の組曲版を取り上げています。78年盤は禍々しさは後退しましたが、管弦楽をドライブする全体の推進力で圧倒するタイプのものです。共通の志向があります。当盤は57年録音の「火の鳥」組曲とあわせられています。春の祭典はイスラエル・フィルとの間でも録音されました。次第に、こなれて現代の古典も作品の誕生時の毒を失いました。安全運転のようで物足りない面もあるもしれません。

 

ストラヴィンスキーは叙情的には乾いた音楽を作ります。表現主義的音楽から新古典、セリー音楽への接近といった歩みに連れて、そういった志向は顕著になります。初期の作品の管弦楽法も巧みな色彩の背景にも余計な身振りの必要ない直截性があります。リズムは作品のもっと根幹にあたります。マーラーでは粘性を発揮したバーンスタイン。ストラヴィンスキーの音楽では推進力を発揮する若き日の録音の方が「らしさ」が出ているかもしれません。

 

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