2019年録音のオテロ。セッション録音での歌劇全曲が生まれにくくなっている時代に制作された一枚です。外題役にはヨセフ・カウフマン。パッパーノ指揮サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団&合唱団。制作が難しいのは、資金問題だけではありません、晩年のヴェルディがオテロに望んだ声は特別なものでした。マクベスにはじまり、シェイクスピアはヴェルディを生涯とらえていました。ワーグナーと同時代時代人であったヴェルディ。ワーグナーは自身の台本をもって劇と音楽を緊密に結びつけました。当初、ヴェルディの反対者であったボーイトは優れた台本を提供。音楽から遠ざかっていた巨匠を再び奮い立たせることになるのです。ホフマンスタールとR.シュトラウスにおける台本作家と作曲家の関係は有名です。ヴェルディとボーイトの間にも書簡が交わされました。作劇に関するヴェルディの的確な指摘。パッパーノ盤はカウフマンの顔をジャケットに据えました。かつてのカラスの録音と同様、歌劇の全曲盤は突出した歌手によってのみ成り立つのではありません。ヴェルディはイアーゴの造形に注文を出しました。オテロは英雄です。嵐という喧騒、周囲の声を打ち消すオテロの声。声の高さだけでは成り立ちません。そこには力感、凄みを備えたものです。同時に、皮膚の色にコンプレックスを抱え、嫉妬に悶える弱さを備えています。イアーゴは、英雄の心に毒を注ぎ込む。作劇でもイアーゴの比重はとても大きいものでした。パッパーノ盤ではイアーゴにカルロス・アルバレス。デズデモナにフェデリカ・ロンバルディを据えています。カウフマンを評したものにはヴィナイ、ジョン・ヴィッカーズの名に連ねていました。ヴィっカーズはともかく、ヴィナイにはトスカニーニの歴史的録音がありました。オテロという歌劇の音楽的な緊密を解き明かした精確差では今もって比類がないものです。フリッツ・ブッシュ、あるいはフルトヴェングラーといった盤にも登場。音楽を輝かしさだけで解いてはいけません。オテロはワーグナー的な劇と音楽の輝かしいイタリアからの応えではありました。同時に、劇であること。シェイクスピア的な劇の展開が必要です。

 

オテロに課されたものは大きいのです。カウフマンのみならず諸役も声は揃い、制作が難しい作品の現代的な到達点。音楽の輝かしさだだけではなく生きた劇中人物を音楽の中に生かし、ヴェルディが付した音楽を再現。

 

人気ブログランキング
人気ブログランキング