2022年録音。ジェルジェ・クルターグに献呈されたヴィングル・オラフソンの小曲集「フロム・アファー」です。ほとんどが1分少々の短い曲からなる二十二曲。これをグランド・ピアノで演奏し、まったく同じ曲目をアップライノ・ピアノで演奏しています。斬新な試みであるとともに商業性を無視したとも言えるでしょう。何しろ二枚分の値段になるわけです。ポピュラー音楽ではミックス違いで収録したり、モノラル・ステレオとあわせて発売するケースもあります。当盤は「親しい人に送る手紙」のような選曲でまとめられ、大勢に向けてというより親しげな構成でまとめられています。楽器の性能も異なり、響きも異なる。ピアノを学ぶ者が誰もが触れるアップライト・ピアノ。オラフソンにとっては真剣に学ぶ楽器であり、同時におもちゃのようなものでした。バルトーク作品にも子供がおもちゃに触れるような演奏が展開しています。手紙、個人的な発露に当たって、幼少からの慣れた響きを提供しているのです。クルターグに献呈されているように、当盤にはクルターグの小品もおさめられています。父親によってクルターグの歌曲集「カフカ断章」に触れた体験。90年代後半とあるので、これはバンゼの歌唱にケラーのヴァイオリンで演奏さrた録音とは異なるでしょう。いずれにしても短いテキストに付された小曲です。短い曲の中に多様なものを詰め込む。それがオラフソンの一枚にも生かされています。バッハのオルガン小曲集から「キリストよ、汝神の子羊」はクルターグ編のトランスクリプションに始まります。

 

バッハ、シューマン、バルトーク、ブラームスといった選はオラフソンを形成してきた音楽です。バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタの一楽章はオラフソン自身のトランスクリプション。全ての曲を意図のもとにまとめ提示されています。アップライト・ピアノでの演奏は弦をフエルトで覆ったものを使用。バロック、ロマン、現代と時代は俯瞰されますが、現代的な視点で捉えられています。クルターグ作品は二十世紀音楽的な難解さから聞きづらいところもあるものです。それが共存し、バッハやシューマン作品とも違和感を生じないのは曲の短さと響きのこだわり、スタインウェイの大きな広がりとは異なるアップライトも宇宙を築いています。民謡も収録されています。内容からは聴き手を選ぶものかもしれませんが、そのメッセージは親しげです。

 

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