2023年録音。ブッフビンダーのブラームスの歌曲集。マックス・レーガーがピアノ独奏用にした版を採用しています。ピアノで歌うことを主眼に旋律が紡がれます。音楽の三要素はメロディ、ハーモニー、リズムです。音楽の起源を探るのは難しいのですが、単旋律は多声に先立って生まれました。和声は古典、ロマンを通じて和声は導音が主音に解決するといった原則によって縛られました。旋律はロマンにあっても音楽の顔にあたります。器楽では声部書法から、歌いにくい展開があります。歌うことを目的としてつくられたのがリートです。最もメロディストとしての本質が見えるわけです。ベートーヴェンを意識していたブラームスのリートのモデルはシューベルトにありました。ドイツ民謡集の編曲があるように、民謡からの影響も大きい。過度な跳躍もなければ、歌いにくい技巧は排除されます。音域はシューベルトよりも狭く平坦です。ロマンの作曲家としては和声に留意されました。器楽では内声部を動かすブラームス。歌曲ではバス声部と主旋律が対比されるように重きをおかれました。モテットや合唱作品で扱われる声部が増えると事情は異なってきます。歌われる詩の選択も重要ですが、当盤に言葉はありません。連作歌曲集「マゲローネのロマンス」、四つの最後の歌といったテーマを持ったものではなく、個々の歌が問題です。著名なオルガン奏者でピアノも巧みであったレーガー。自らをベートーヴェン、ブラームスといったドイツ音楽の継承者とみなしていました。ブラームスの歌曲もあえて技巧的なピアノ曲とはしません。感触としてはブラームスの書いたピアノ小品を耳にしたようなものです。実はピアノの書法も歌詞と一体になって心象も表現するものです。ブラームスのピアノ小品は四、六、八といった数のうちのピースの一つでしかありません。抽象的な音楽作品ですが、盛り込まれた情緒はやはりロマンのものです。対立する立場にあったはずのワーグナー、リスト、ブルックナーといった作曲家にも共通項を見出せるでしょう。ブラームスは歌劇を書きませんでしたが、作曲の計画は持っていました。

 

ブッフビンダーのピアノだけのブラームスの世界。その背後にはレーガーもいますいずれの作曲者の名前も忘れてしまうようなのはピアノで歌う。メンデルスゾーンの無言歌集、グリーグの抒情小曲集といった作品はまとまった数を退屈させずに聞かせるのは難題です。ブッフビンダーの演奏には起伏があり、何より歌心があるものです。

 

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