ギリシアのソプラノ、エレナ・スリオティスの絶頂期を止める代表的な録音。ヴェルディのマクベスです。ヴェルディの初期オペラでも有名なガルデッリの指揮は手堅く、凝縮されたドラマを聞くことができるでしょう。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、マクベスをフィッシャー=ディースカウが歌うという異質なものです。ヴェルディを歌うフィッシャー=ディースカウはファルスタッフを初めとした諸役が有名です。すぐそれとわかる声は貴重ですが、イタリア歌劇としては違和感を感じるかも知れません。シェイクスピア劇のように心怯える心理の抉り、役への没入は深い。バンクォーにギャウロフ、若き日のパヴァロッティのマクダフと凝った配役でも有名な一枚でした。ヴェルディは晩年のオテロ、ファルスタッフに踏み込むようにシェイクスピアに傾倒しました。特にリア王には執心しました。マクベスは1847年に初演され、1865年に改訂されました。18年をあけています。一般にヴェルディの初期歌劇は力技が多く、劇的な進行も起伏が乏しいとされます。貧しい商人の息子に生まれ、裕福な商人パレっツィの支援を得て作曲家となることができたヴェルディ。パレっツィの娘と結婚し、二人の子をもうけます。短いうちに妻、子供二人を失ってしまうことになります。打ちのめされたヴェルディを立ち直らせたのがイタリアの統一運動に乗った叙事的なナブッコでした。国家、民族的な題材を扱っていたヴェルディが人間、心理を主題にあつかったのがマクベスでした。「魔女は合唱に代わり、「きれいは汚い、汚いはきれ​​い」を歌う。マクベス夫人に要求されるのは、美声ではありません。その点、スリオティスの声は劇的です。サバータ指揮でカラスがマクベス夫人を歌った68年のライヴ、アバドやシャイーのもとでのヴァーレットなどとマクベスを歌う人以上に焦点が当たります。主殺し、魔女の予言の成就や、悲劇に向かう力、悪といった象徴になっているからです。

 

ワーグナーと同年生まれであったヴェルディ。イタリアには並ぶもののなかったヴェルディでしたが、ドイツに革新者がいることを知ったのは後年のことらしい。歌劇の革新としては劇と音楽を一致させることになりました。劇的な音楽と歌の両立。初期歌劇には、この強力な歌は不足しています。改訂のおかげで形を整えたシェイクスピア劇。スリオティスのノルマ、ナブッコ録音と並んでこれも備えて起きたいものです。

 

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