グレゴリー・ソコロフのバッハ、「フーガの技法」です。パルティータの第二番とあわされたもの。82年録音でした。16歳で第三回チャイコフスキー国際コンクールでの優勝した天才少年は、50年生まれ。当盤も古いものとなりました。録音時は三十代前半でした。66年のチャイコフスキー国際コンクールの審査にはギレリスもいました。第一回の覇者がアメリカ人のクライバーン。旧ソ連時代のコンクールは国際的なものでもありました。一方、国の威信をかけての政治的な色彩も帯びていました。第三回はソ連単独の覇者となったわけです。ペレストロイカ後の西側への移住。ソコロフもまたロシア・ピアニズムの流れにあります。リヒテルの平均律クラヴィーア曲集、ニコラーエワのフーガの技法、ヴェデルニコフといった一連の印象深いディスクがあります。亡命組のアファナシエフも69年の国際ライプツィヒ国際バッハ・コンクールの覇者でした。リヒテルのバッハへの言及も多い。ロシア・ピアニズムを印象付けるのが背後にある総量の大きさです。難曲、大曲に対してもなお余るものを残し、深みを感じさせる。オープン・スコアで書かれていて作品目録では「一つの作品の中に異なる演奏形態の含まれている作品や演奏形態の指定のない作品​​」に分類されます。古くから管弦楽、弦楽四重奏、オルガンといった形で演奏されてきました。バッハの時代のクラヴィーアは音量の変化を付けにくいものでした。ポリフォニーを浮かび上がらせるために、奏者は声部の入りを目立たせるよう工夫するものです。ピアノが表現力を向上させていく過程で音量は大きくなっていきました。弱音と強音の差異も大きくなり、そこでは音色も変わっていくのです。おそらくバッハのフーガの技法は一つの主題を多様に展開させる、可能性を汲み取ることに留意された作品です。演奏によっては恐ろしく眠気を生じさせる作品でもあります。音楽の表情そのものが線によったもので、色彩的なものに乏しくなりがちです。

 

リヒテルもニコラーエワも現代のピアノの性能を引き出し、音色の変化も引き出します。各声部は歌い、グールドのような奇矯でもない。深く練り込まれた低音に、ゆっくりと進む音楽は純度がとても高い。沈み込むように重い演奏がバッハの内奥へ踏み込んでいきます。フランス、オーパス111から。

 

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