2023年録音。ダニエル・トリフォノフとセルゲイ・ババヤンによるラフマニノフの作品集です。二台のピアノで織りなす世界。作曲家=ピアニストでもあったラフマニノフらしく、それぞれの奏者には高い能力が要求されます。響きの大きさだけではなく、楽器の性能を引き出すことにも留意されているのです。二つの組曲を中心に据え、トリフォノフ編の交響曲第二番から濃厚なロマンで有名な第三楽章を収め、オリジナルの交響的舞曲の二台のピアノ版を収録。作品45aを与えられた作品はラフマニノフ最後のもの。管弦楽版が有名ですが、その原型となりました。作曲者とホロヴィッツが初演を担いました。ババヤンのドイツ・グラモフォンの初の取り組みがアルゲリッチとのProkofiev For Twoでした。クリーヴランドの音楽院ではアーティスト・イン・レジデンス。そこに学んだのがトリフォノフです。師弟によるラフマニノフ・アルバムもRachmaninov For Two。作曲者の生誕百五十周年による企画でした。ラフマニノフはピアノを離れたところでも濃厚なロマンを感じさせる作品を書き上げました。交響曲も長大で、特に、ピアノ的な発想があるわけではありません。管弦楽法も音色への対応と的確な技術を持っていました。特にロシアのオーケストラはそういったロマンを引き出すものです。ラフマニノフは革命とともにロシアを離れました。望郷の念をだきながら、アメリカの地で生を閉じることになります。故国での埋葬という望みも叶えられませんでした。ピアノ協奏曲第二番を初め多くの有名な作品が渡米前の作品です。そこには多くの苦悩がありました。心の問題は大きく、作品を生み出すような状況ではありませんでした。濃厚に称えていたロマンは、それを育んだ環境にありました。ルービンシュタイン、チャイコフスキーといった先達は音楽未明の地であったロシアに音楽的な環境を整えました。そのモデルとしたドイツ音楽は後期ロマン的な土壌のうちにあったものです。

 

交響的舞曲といった最後の作品を除き、組曲の第二番はピアノ協奏曲第二番と同時期の作品だったり、ドレスデンで書かれた交響曲第二番も革命前のものです。ヨーロッパ的な土壌で生まれた作品は、ピアノという形で聞いてもロマンとともに響きの豊かさを持っています。時に交響的な響きは、管弦楽法の発想にもピアノ的な和声、響きのバランスの感覚として生かされていたのかもしれません。

 

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