60年代、ウェルナー・ヒンクによって活動をはじめた老舗の四重奏弾。ウィーン弦楽四重奏団によるブラームスの弦楽四重奏曲第一番、第二番の二曲。ともに作品番号61が付されている四重奏を収めた一枚です。2007年録音。メンバーは何度も入れ替わっていますが、ウィーン・フィル由来の弦のしなやかさを伝えています。古くはウェラー四重奏団、バリリ四重奏弾、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏弾などウィーン・フィルを母体にした四重奏弾がありました。ウィーン・フィルもブラームスの生きた時代と、二十一世紀の間には大きな隔たりがあるでしょう。ヒンクに限らず、累々と並ぶコンサート・マスターたち。個々の団員たちも確実に時代の音をつくってきたのでした。ブラームスはウィーン・フィルのオーボエ、ホルンといったウィーン独自の音色を好んでいたと伝えられます。ブラームスの交響曲は世界交響曲でドイツの管弦楽に限らず演奏されます。弦楽四重奏も同様です。演奏に地域性をを指摘する必要はありません。それでも、ウィーン弦楽四重奏団の演奏からはウィーン的なものを聴き取ることができるでしょう。ブラームスは弦楽四重奏を三曲残しました。最後の第三番は作品番号が違います。この第三番の時点で第一交響曲が生み出されています。ブラームスは楽譜の収集家でした。前時代の音楽の検証からアイデアを得ることも多かった。弦楽四重奏も交響曲と同様に難儀の末に生み出されました。世に出ることなくいくつもの作品が破棄されました。すでにロマンの時代、ヴァイオリン属の楽器による等質な響きの四声体は役割を後退させていました。ベートーヴェンに理想を求めても、その晩年の境地の更に先を見据えることは難しいものとなっていました。代わりに、音量を増していったピアノを交えた室内楽は大きく花開くこととなりました。シューマンの弦楽四重奏も三曲。ロマン的な情緒を盛り込んだこの分野に、ブラームスは声部の緻密さを加え、構造的なバランスを与えました。

 

第一番は硬質な印象を与える曲です。ウィーン弦楽四重奏団は叙情的で柔らかい表情を紡ぎ出します。これは編成を拡大した五重奏、六重奏曲などでも見られる特徴です。分野としては地味で、なかなか代表的なものを見出しにくい分野。多くが堅固なスタイルを持っています。ウィーン弦楽四重奏弾の柔和は対抗としても良い。独自の内声を動かすブラームス的な書法も明瞭に聞こえます。

 

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