ベートーヴェン・ジャーニーと題されたソニー・クラシカル、アンスネスのベートーヴェン協奏曲の弾きぶりのプロジェクト。2013年、第二弾となった第二、四協奏曲の二曲を収めた一枚です。2011年に始まり、2014年に完結しました。合唱幻想曲も含みます。ジャーニーとされたのは四年をかけて、協奏曲を主軸とし全曲を演奏。オーケストラを帯同し、世界五十カ国、百五十もの演奏会で披露するというものです。上演する会場、楽器の状態、聴衆と様々な環境のもと、ベートーヴェンに取り組む。まさにジャーニーとなっているのです。当盤はマーラー・チェンバー・オーケストラが支えます。アンスネスも録音時四十代、管弦楽も十分に若く、対応は柔軟です。もはや弾きぶりはモーツァルトに代表される大きさの協奏曲ではありません。ベートーヴェンの協奏曲は交響的な効果もあり、今なお指揮者の牽引のもと音楽をつくりあげるのが主流です。ロマンのブラームスのような作品まで弾きぶりで展開される今日。弾きぶりだけでは話になりません。ノルウェー出自、70年生まれのアンスネス。グリーグの協奏曲、叙情小曲集に代表されるような北欧の作品はもちろん掌中にあり、叙情を引き出します。実際のレパートリーは広範で知られ、モーツァルト、ベートーヴェンを中核にした古典から、ロマン、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーといったモダンまでをも取り上げます。叙情性を発揮した作品に真価を発揮し、ベートーヴェンも重量感は前面には立ちません。第四協奏曲は作曲者のピアノによって初演され、作曲者が存命中にはウィーンでは二度しか取り上げられませんでした。当時としては演奏の難易度が高く、音楽的な魅力を発揮することが難しかったからでした。多くが指揮者を置くのは名技だけではなく、交響的な管弦楽の中に独奏楽器を置いてバランスをとったからです。ピアノのオブリガード付きの交響曲のように響く演奏も往々にしてあります。第三協奏曲以降は多くの奏者が取り組み、名盤も揃います。

 

アンスネスでは、今いちどモーツァルト的な響きも引き出し、ピアノと管弦楽。協奏曲的な響きの響きの対比を用いています。管弦楽も含めた演奏のバランスはすべて独奏者が調整するというスタイル。アンスネスにとってベートーヴェン協奏曲録音は初の試みでした。アンスネスのピアノに聞かれるような叙情が管弦楽からも聞こえてきます。古典以上にロマンに聞こえる瞬間もあります。叙情性では比類ない。新たな曲の魅力を引き出しています。

 

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