ボーイトのメフィストーフェレ。88年のパターネ盤です。58年録音のセラフィン盤のシェピ、80年代のデ・ファブリティス盤のギャウロフといった印象的なメフィストーフェレを擁した名盤がありました。パターネ盤のレイミーもまた役の内奥に踏み込んだ歌唱で印象的な歌劇としています。ベルリオーズの「ファウストの劫罰」、リストの「ファウスト交響曲」、シューマンの「ファウストからの情景」、グノーの「ファウスト」、マーラーの第八交響曲といったファウストによって生まれた音楽作品です。主にゲーテによって形作られたファウストの物語。ブゾーニが「ファウスト博士」の台本ではゲーテから離れて悪魔と契約した錬金術師という伝説そのものに遡っています。ドイツ系の作曲家はゲーテのテキストを生かし、イタリア、フランスでは翻案するといった解説を多くで目にすることでしょう。特に、グノーの「ファウスト」はカルメンと並ぶフランスを代表する人気作となっています。フランス語のため「フォースト」としても良いでしょう。ファウストとマルグリーテを物語の根幹に置いて、哲学的考察を排し劇的に構成した作品です。宗教的基調があり、展開もわかりやすいものです。イタリアのボーイトもグノーと同様に、翻案型です。グノーの作品と比べれば上演回数は極めて少ない。晩年のヴェルディの枯渇した創作力を喚起したのはボーイトの台本の力でした。「オテロ」、「ファルスタッフ」の成果は、優れた台本があって力を発揮することができたのです。ヴェルディが実際にワーグナーのどの歌劇に接したかは検証が必要です。おそらく晩年のものではなく、ローエングリンなどのロマン的な作品でしょう。「オテロ」はワーグナー的な成果をイタリア風に昇華した成果となります。まず管弦楽の筆致もてをつくしたものとなり、写実性が重んじられます。形骸的な重唱は排除され、ドラマの凝縮力が高まるわけです。ボーイト作品は、ファウストの第二部についても踏み込み、結局、空回りしてしまった部分があります。ファウスト博士ではなく、メフィストーフェレ、悪魔に焦点が結ばれるものです。観念的な部分が魅力。娯楽性には欠けるものとなっています。ここに、ヴェルディが踏み込んだものとは別のワーグナーの影響を見ることもできるでしょう。

 

惜しい部分もありますが、パターネ盤も及第点。ムーティがやはりレイミーを起用しています。グノー作品以上に、悪魔的要素が増しているボーイト作品。改訂が繰り返され聴衆の耳にも届くようになりました。

 

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