イ・ムジチ合奏団の代表盤の一つ、バッハのブランデンブルク協奏曲全曲です。イ・ムジチ合奏団の編成は六ー二ー二にコントラバス一に、チェンバロが加わった十二人編成です。こちらはカルミレッリ時代の84年盤です。弦楽アンサンブルのために、管楽器をはじめとした独奏者は外部から集められています。ヴィヴァルディなどの録音でお馴染みのオーボエにはホリガー、ガッゼローニのフルート、トゥーネマンのファゴット、バウマンのホルンといった名士が揃っています。63年のアーヨ盤とも人選が被るものもあります。いつものスイスのスタジオでの収録に、呼吸のあった人選がされているのです。当盤はアーヨ盤以上に、快速で過ぎゆく景色は流れていきます。「ローマの音楽家たち」はドイツの構築的なバッハ演奏ではなく、バッハが直截的な影響を受けたヴィヴァルディの流儀での再現です。使用楽器もモダン。「四季」で有名になった当時も、解雇的な演奏ではありませんでした。弦楽器は流麗で、合奏団で編成を全うする第三番などは本領を発揮しているものです。正しい演奏を定義することは難しいものです。時代楽器の登場は、求められている奏法が今日のものとは異なるものであることを明らかにしてきました。正しい音程で、楷書的に進行する。均質な音程、音量で鳴らすとともに、音量のコントロールが求められます。朗朗となるトランペットが他を圧するのではなく、複数の独奏楽器の中でもバランスが保たれるのです。時代楽器のキーも不足した楽器では、ピッチの安定も至難なものでした。現代に寄せたイ・ムジチ合奏団は伝統的な協奏曲の通り、独奏楽器(群)と合奏体の対比も分かりやすい。かつてのリヒター盤のような厳粛なものではなく、個々の楽器の音色の美しさも生かされています。音量が足りなくて廃れていったリコーダーなどもこの編成で生きてきます。室内管弦団の制作と似ているものですが、ヴァイオリンを除けば個々の協奏曲を弦楽アンサンブルが支えるもの。指揮者を置いての統率とは異なり、自発的な呼吸が支えます。

 

改めて、編成の異なる集成というブランデンブルク協奏曲の多様性が際立ちます。録音のためには、曲ごとに編成を変えていかなくてはなりません。響きの対比としましたが、独奏楽器群の区別のないものもあります。五番などには不満もあります。さまざまな方法を実践して協奏曲分野の可能性を探った実験作。アイデアを示すとともに、作曲の能力を示すものでもありました

 

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