シノーポリ指揮のワーグナー管弦楽曲集です。シュターツカペレ・ドレスデン、95年の録音です。85年の同種の一枚はニューヨーク・フィルハーモニックとのものでした。85年はニュルンベルグのマイスタージンガー第一幕前奏曲、さまよえるオランダ人序曲、ジークフリート牧歌、ローエングリン第一幕、第三幕の前奏曲という構成でした。ワーグナーは番号式の歌劇を撤廃し、交響的に鳴らされる管弦楽と、歌唱を一体のものとした楽劇を創造しました。音楽、文学、劇の融合を目指したのです。自身が台本を書き、最初の演出家としても君臨しました。指揮者が専門的な職業として認知される由来も、ワーグナーのような大作、第管弦楽を統率するという必要性から生まれたものです。95年のドレスデンとの一枚は、リェンツィ、恋愛禁制というさまよえるオランダ人以前の二作品の序曲から始まります。続いてタンホイザーから序曲、バッカナール、パルジファルから第一幕の前奏曲、聖金曜日の音楽を取り上げています。序曲は歌劇の冒頭に置かれるものでした。本編の素材から編まれることも多く、独立性を持った管弦楽作品となります。ベートーヴェンがフィデリオのために書いた多くの序曲も、序曲の在り方を示唆しています。モーツァルト、ウェーバー、ロッシーニと古典、ロマンの多くが序曲集として成立する序曲を残しています。ワーグナーの場合は総合芸術に向かう過程で、切れ目のない劇の連続性を採用しました。前奏曲は単なる開始であり、独立性は次第に薄いものとなっていきます。最後の作品、パルジファルの瞑想的な前奏曲から、いきなり聴き手は神秘の森のうちに連れられてしまうのです。シノーポリの指揮も得意のテンポの揺らぎは生かされます。管弦楽の持つ低重心の音は機能性を追求した現代的な管弦楽の響きではありません。タンホイザーの序曲など、典型的な管弦楽法が生かされた作品として知られています。職人的な作曲家であったら、楽器の用例を参照し響きを調和することを目指します。ワーグナー作品は劇の連続性が尊重されるのですから、ムードを変調するわけにはいきません。楽器指定もそのままに作曲家の望む響きは、時に異例なものであっても強要されるよう書かれています。

 

管弦楽曲集としては景気のいい壮大な音楽が多いのも事実ですが、神秘や、静謐な音楽も劇のうちに盛り込まれています。管弦楽曲集は断片を切り取ったものに過ぎませんが、パルジファルの神秘にも至ることで、壮大な鳴りだけの音楽としていません。ドレスデンの古色に、ドイツ音楽の重厚を感じさせる内容でした。

 

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