スティーヴン・ハフ。2014年録音のブラームスの最後のピアノ小品集です。ベートーヴェンの衣鉢を継ぐという自負のあったブラームス。交響曲も四曲、弦楽四重奏曲は三曲、ピアノ・ソナタは三曲を残しました。すでにシューマンの時代にピアノ・ソナタの形式追求は役割を終えていました。ロマンの拡大する情動に、収める形式は窮屈な縛りともなっていたのです。ブラームスのピアノ・ソナタは最初期に書かれた三曲に止まります。これらを耳にした時、シューマンは若き作曲家に新時代を見出したのでした。初期には他四曲のバラードがあります。ブラームスのピアノ曲には優れた変奏曲作家としてのパガニーニ変奏曲、ヘンデル変奏曲が中核にあり、二つのラプソディも重要作です。ハフが当盤でとりあげたのは後期のロマン的な小品をまとめたものです。シューベルトはソナタ以上に即興曲集、楽興の時といった小品に歌曲でも展開した歌う性格を発揮することができました。グールドに間奏曲集というブラームスの小品をまとめた一枚があります。ブラームスの小品に含まれることが多かった間奏曲。これは形式自体があってもないような楽想は自由に展開します。グールドは排しましたが、小品集は構成も考えられ、リズムを主体とした作品も含まれます。ハフのブラームス録音は当盤以外に、ソナタ、バラード、協奏曲、チェロ・ソナタやピアノ五重奏曲、といった室内楽があります。ベートーヴェンは耳に疾患がありました。シューマンは指の故障があり、ピアニストの道を断念することになります。ブラームスは厳格な教師に学び、自身もピアノを弾き、作曲してきた作曲家です。内省的で大きな舞台には向かないタイプのものでしたが、健全な状態でピアノ音楽と向き合うことができました。内声がよく動くという特徴はここでも発揮され、ピアニストはロマンの表出とともに運指にも悩まされることになります。

 

北ドイツの重厚。ブラームスの小品の特に後期の作品は渋い音楽のように扱われてきました。グールドが間奏曲集を録音した時はまだ二十代でした。吉田秀和がルプーの演奏を評価した時も、その叙情と瑞々しさが特別なものであることを指摘していました。ハフの演奏の叙情も枯れたものではあります。ブラームスは発想表記にエスプレッシーヴォを多用した作曲家でもあります。感情表現はロマンの特質でもあり、後期にあっても古典の継承どころか、濃厚なロマンの只中にあったのです。

 

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