87年録音。小澤征爾指揮のボストン交響楽団、タングルウッド祝祭合唱団によるプーランクの独唱、合唱と管弦楽のための宗教的作品二題を収めています。独唱はキャスリーン・バトル。特に、印象的な歌唱を披露しています。軽妙洒脱とされたプーランク。歌劇の「カルメル派修道女の対話」のギロチンの場に向かう修道女が歌うサルヴェ・レジーナに心打たれたない人はいないでしょう。刑死という陰惨な場面。ギロチンに消えていく度に、声は失われていくのです。教徒の真摯さが強固な信仰を育んでいったのです。この歌劇と合唱作品は軽妙とは遠いプーランクの一面で、多くが見過ごしていたものです。早熟であったプーランクの活動は早いものでした。若き頃にあったフランス六人組は緩やかな芸術家集団でした。新古典的な取り組みは、調性を保持し楽理に則った作品を生み出すことに繋がります。才気を発揮するに十分なものでした。パリジャンでもあったプーランクの都会的な作風にも適していたのです。宗教的なものに向かい合うのは三十代です。宗教的なものは、真摯なものでした。当盤は神の栄光を讃えるグロリアと、友人であった画家クリスチャン・ベラールの追悼のために書かれたスターバト・マーテルを収めています。教会文を基にしていること、真摯な作品であることは共通しています。フランス音楽を得意としていた小澤征爾。かつて、プーランクの歌劇には外すことのできなかったデュヴァルとともに訪米しました。歌劇「人間の声」が上演され、「グロリア」も世界初演がなされました。この時の指揮がミュンシュです。フランス音楽への適正や、師譲りの管弦楽を鳴らす手腕に繋がっているかもしれません。合唱は歌詞も聞き取りやすく、効果を上げるのはプーランクの音楽です。当盤は、この真摯な音楽から精気を引き出したものとして記憶される一枚です。音楽は合唱のみであったり、神秘的な音楽も含みます。スターバト・マーテルに始まり、「人間の声」に至る真摯な音楽があるにもかかわらず、軽妙な音楽の書き手であるという世間の認識はプーランクを苛立たせました。

 

松本フェスティバルでもティレジアスの乳房、カルメル派修道女の対話の二作品が取り上げられています。ストラヴィンスキーや、オネゲル、ラヴェルといった比較的、取り上げられる機会の少ない歌劇を取り上げるのも小澤征爾の試みでした。芸術祭という機会に二十世紀音楽を展開するのです。

 

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