ツィメルマンのリスト・アルバム。ピアノソナタと並ぶピアノ協奏曲二曲を収めた一枚です。グレゴリオ聖歌「怒りの日」をモチーフにしたパラフレーズ、協奏的作品でもある「死の舞踏」も合わせています。バーンスタイン、ジュリーニ、ブーレーズ、ラトルといった名士やカラヤンとも共演しているツィメルマン。リストとラフマニノフの協奏曲は小澤征爾指揮ボストン交響楽団との共演になっています。87年の録音。自身の楽器を会場に合わせて調整します。徹底する完璧主義者として知られるツィメルマン。選曲も演奏も徹底しています。当然、共演者も曲に合わせてのものとなっています。ジュリーニとの共演があったにもかかわらずショパンの協奏曲は弾きぶりで再録音されました。解釈は徹底されるのです。かつてボストン交響楽団を率いた小澤征爾の師、ミュンシュは、合わせものを苦手としたとされています。協奏曲には、独奏者との音楽的な協調、対応力が求められるものです。リストの協奏曲第一番は「トライアングル協奏曲」といわれています。音楽評論家ハンスリックがトライアングルの使用を揶揄したものです。音楽美を純音楽的なもの、均衡に求めたハンスリックはリスト、ワーグナーの音楽を批難しました。擁護されることが多かったのはブラームスです。そのブラームスも交響曲第四番ではトライアングルを使用していました。ハンスリックはリストのピアノソナタも批難しています。リストもワーグナーも新しい響きを模索し、従前にない新しい和音を見出しました。協奏曲もソナタも有機的な統一が図られ、循環的な素材の活用が行われています。「死の舞踏」も「怒りの日」を素材にした作品としても知られています。ベルリオーズをはじめラフマニノフもこの主題を登場させました。古来、この主題は薄暗い色調で様々な作品に活用されました。

 

リストの発想はフレスコ画からの印象で、「死の舞踏」という題名もそこからきています。標題性もロマン的な情緒の拡大という目的がありました。交響詩も、そういった器としての自由な形式の模索にありましたが、協奏曲、ソナタといったところは独自の形式の合理性をも追求しています。管弦楽法も繊細で、ピアノは縦横に活躍する作品です。単なる伴奏には止まらない形式感を持っています。二十世紀作品を得意とした小澤征爾の情感。リストの協奏曲を爆発的な推進力だけではない知的な枠組みから捉えています。ロマンを超えて、先進を感じさせるものでユニークな演奏です。「死の舞踏」も合わさっていることは喜ばしい。

 

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