バッハの音楽の捧げもの。99年から2000年にかけて収録されたジョルジュ・サヴァール指揮コンセール・ド・ナシオンによる演奏です。一つの定旋律の様々な展開。フーガの技法とともにバッハが晩年に達した対位法的な技法の集成とされています。 BWV、作品番号では1079、1080と連なり、(「音楽の捧げもの」の「二つのヴァイオリンのための同度の花音」「トリオ・ソナタ」といった例外を除き、楽器指定もありません。伝によると主題はフリードリヒ大王から与えられたものです。これを三声と六声のリチェルカーレ、トリオ・ソナタ、10曲から成るカノンで構成しました。コンセール・ド・ナシオンという団体名はクープランの作品に由来します。クープラン、リュリやシャルパンティエといったフランスを彩ったバロックから、ロマンをもとりあげます。バッハは様々な作曲家の作品の一端です。当盤は、バッハの真奥にまで踏み込んだ霊感に満ちた一枚です。同時に、これまであった演奏とも異なるものでもあります。楽器指定を含めて、そもそも演奏されるための作品かどうかも問われる作品です。フーガの技法と同様に、室内楽編成の管弦楽で演奏されることもあります。指揮者を置く場合と置かない場合もあります。カノンは解決を問われ、牽引するものがどういった方向に曲を解き、導くのかを問われる作品です。当盤は主題をまずトラヴェルソからはじめます。フリードリヒ大王は音楽を愛した文化人でもありました。バッハの息子、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハは宮廷楽団のチェンバロ奏者。その縁で来訪を請われていたことからの主題提示です。

 

当盤は剥き出しの主題を、トラヴェルソではじめます。それは王が好んだ笛から提示されたという演出です。トリオ・ソナタが作品にあり、楽器指定もされているのは、その響きを好んだからに他なりません。六声のリチェルカーレは弦の響きでも再現されます。レオンハルトに学んだピエール・アンタイのチェンバロ。ここではフランス宮廷にならってクラヴサンとする方が良いでしょう。マルク・アンタイのトラヴェルソ、ガンバも担うサヴァール。人を得て、配置も編成も独自ですが、充実感を持った一枚です。声部は豊かに表情を持ったものとして解かれていきます。バッハの晩年の音楽は人が近づけない奥の院ではありません。ピッチも楽器も時代楽器のもの。奏者が濃密に持っているものを感じさせるバッハです。

 

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