ルノー・カピュソン。2020年録音のエルガーをめぐる作品を収めた一枚です。サイモン・ラトルとの共演によるヴァイオリン協奏曲。管弦楽はロンドン交響楽団となっています。エルガーの協奏曲はヴァイオリニストにとって多くの体力を要する作品です。1910年にクライスラーによって初演されました。なぜかクライスラーはこの作品を録音しませんでした。歴史的には32年という古い録音になりますが、エルガー自身の指揮ロンドン交響楽団によるものが有名です。独奏は当時16歳のメニューインでした。メニューインの神童伝説の一端をになっています。この録音がたたえた叙情は今でも光を放つ内容でしょう。続く有名なハイフェッツ盤は49年録音。マルコム・サージェント指揮こちらもロンドン交響楽団でした。デュプレによって広く知られたチェロ協奏曲にはカザルスの歴史的な録音や、後続の演奏をいくつも見出すことができます。ヴァイオリン協奏曲は近年こそ録音は増えてきましたが、今なお潤沢な録音点数を見出すことはできません。カピュソンはエルガーが弦楽四重奏曲やピアノ五重奏曲といった主要な室内楽作品と同時期のヴァイオリン・ソナタをあわせています。ピアノはスティーヴン・ハフ。このソナタの初演者もロンドン交響楽団のコンサートマスターでW.H.リードと多くがロンドン交響楽団ゆかりのものとなっています。すでにエルガーとの直接的な接点はありません。フランスのカピュソンがイギリス音楽を演奏する。エルガーというイギリス音楽はすでに世界音楽となっているものです。チェロ協奏曲と同様に、ヴァイオリン協奏曲も管弦楽パートは重要です。ヴァイオリン・パートも高い技巧が要求されます。体力を要求されるのは主に演奏時間からきているものです。同時に、全編技巧誇示ではなく、ロマンティックな情緒が特徴的です。エルガーに限らずイギリスの音楽は多くが強く発散する情緒とは無縁なものが多い。古くコリン・ウィルソンが「温いビール」といった特質は、刺激の少なさについての指摘です。イギリスの田園音楽などにはより顕著な形で見出せるでしょう。イギリス固有のものは伝統でもあリます。

 

同時に、独特の高貴を保っているのもイギリス音楽です。エルガーのヴァイオリン音楽に資するには十分なものがあり、協奏曲録音を行ったものを並べても名士の列ができます。当盤のラトルもエルガーに連なる伝統を引き出した管弦楽の音色。曲の長さから温いと感じさせる作品も、演奏によってはチェロ協奏曲と同様の協奏的な魅力を発揮するものです。ヴァイオリン・ソナタも晩年の特別な境地を伝えます。

 

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