ブレハッチのバッハ・アルバムです。イタリア協奏曲、パルティータ第一番、第三番、四つのデュエット、幻想曲とフーガ イ短調 BWV944、コラール「主よ人の望みの喜びよ」を収録。2012年、2015年の録音をまとめています。2005年のショパン国際ピアノ・コンクールの優勝者は四歳の時にオルガンを弾くところから出発しました。ピアノを始める前のことです。カナダのグレン・グールドもオルガンを弾くところから出発しました。教会的な響き、持続音が残るというところからオルガンはピアノとは音響の原理が異なる楽器です。コンクール覇者はピアノの性能を高度に引き出すことに専心します。グールドはフーガの技法の抜粋をオルガンで弾いています。ブレハッチのものはピアノで弾かれ現代のピアノの響きを引き出したものです。グールドのバッハは独特なものでした。多声部の描き分けが見事で、時に奇矯な響きを生み出すこともありました。グールドはバッハに専心したといっても良いものです。ブレハッチはグールドが嫌ったロマンの音楽も積極的に手がけます。ポーランドという出自はショパンの音楽を避けることはできません。ショパンの音楽はスラヴ的情緒を持ち、ロマン的で濃厚な時代に生まれました。ショパンはバッハの音楽をさらうことを求め、自身も深く影響を受けることになりました。ショパンは自身がロマン派とみなされることも嫌っていたのです。ショパン本人のバッハ演奏は確認のしようがありません。ブレハッチのバッハはグールドほどに奇矯ではなく、伝統的なものに近いところにあります。曲によっては速度感はあり現代的なものです。各声部は明瞭に聞こえます。ブレハッチは折に触れオルガンに触れています。発想はピアノのものですが、グールドが行ったような音を区切るような方法はとりません。

 

イタリア協奏曲に組曲もののパルティータを組み合わせた選曲。イタリア協奏曲はヴィヴァルディなどのイタリア様式の協奏曲を独奏用に展開したものです。特に第三楽章の近年の早さは見せ場であり、異例の速度を取るものが多い。当盤もそれに即したものです。バッハの使用した楽器はピアノではなくチェンバロでした。チェンバロも地域によって異なる特徴を備えた楽器です。ショパンの使用したピアノも鍵盤の幅、音域など現代のピアノとは異なるものです。同時に、バッハの音楽は鍵盤を使用した楽器として奏者に即した発想から成っています。パルティータはより多彩な内容となっています。早いものは早く、リズムの刻印は鮮やか。時にグールド以上に大胆です。全体に整合性が取れているのは組曲の配列をしたバッハの音楽に拠るもの。奏者は多くの舞曲で構成される曲の性格を引き出したのです。現代とは異なる楽器でのバッハ演奏。演奏は音楽の核心を見出すことにあります。

 

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