アルミン・ジョルダン指揮スイス・ロマンド管弦楽団。フランク・マルタン作品集、89、91年録音。ヴィクトリア・ホールでの収録です。小協奏交響曲、「イェダーマン」からの6つのモノローグ、7つの管楽器、ティンパニ、打楽器と弦楽のための協奏曲の3曲を収録しています。スイス・ロマンド管弦楽団といえば、18年から67年というほぼ半世紀に及んだアンセルメとの蜜月です。放送オーケストラ
を合併して成立したための放送局からの支援があり、アンセルメの広範な曲目を収録してきました。録音上のマジックに大きく貢献したのがヴィクトリア・ホールの音響です。そのマジックに音響上の操作があったわけではなく、実際に精緻な音楽を奏でていたのでした。「楽音をセンスで満たす」ことに専心したリアリスト、アンセルメのバランスの感覚です。1883年生まれのアンセルメはストラヴィンスキー、ラヴェルとともに直接、接点を持っていました。20世紀音楽についての権威でもあったアンセルメ。同時に無調をはじめとした調性を離れた音楽の進む方向には懐疑的でした。フランク・マルタンは、シェーンベルクの十二音技法を摂取しましたが、この手腕を旋律の発展に用いるなど、調性の範囲にとどまった作曲家です。オネゲルとともにスイス出自ということもあって、アンセルメ、スイス・ロマンド管弦楽団にとっても重要なレパートリーとなりました。吉田秀和の著書で、進駐軍のラジオから聞いたマルタンの音楽は、戦争に疲弊した心に響くものとなりました。再び音楽を聞くこと、それが当時の先進でもあったマルタンの音楽でした。飛びぬけた前衛ではなく、音楽的伝統に基づいた音の構築。作品はハープ、チェンバロ、ピアノと弦楽合奏のための小協奏交響曲(44~45)でした。当盤では同曲を46年に三菅編成の管弦楽版にした協奏交響曲版を収録しています。当盤にはやはり重要作、49年の7つの管楽器とティンパニ、弦楽器のための協奏曲と編成を並べただけのタイトルの協奏曲が並びます。抽象的な楽音に拠る音楽はバルトークの弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽を想起してもよいでしょう。現代に復活した古き語法。独奏楽器郡と合奏体はコンチェルト・グロッソなどにも遡り、協奏交響曲はハイドン、モーツァルトの伝統にまで回帰します。

今や息子であるフィリップが活躍するジョルダン。父ジョルダンであるアルミンは、スイスという出自、アンセルメの衣鉢を継ぎ、オネゲル、マルタンを多くとり上げました。音響も新たにアンセルメの伝統が再生されます。イェダーマンはR.シュトラウスとの親交で有名だったホフマンスタールのドイツ語テキストに付したバリトンと管弦楽のための6つのモノローグの49年の作品です。バッハのマタイ受難曲から大きく示唆を受けて、作曲家の道を歩んだマルタン。歌劇のほか、オラトリオ、多くの宗教曲をも残します。マルタン作品集は管弦楽でまとめられることも多いのですが、一枚を多彩なものとしています。


 


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