ハリー・クリストファーズ、ザ・シックスティーンのバッハ、カンタータ集。カンタータ中の有名作品第147番「心と口と行いと命もて」を中心に、第50番「今や,われらの神の救いと力と」、第34番
「おお永遠の炎,愛の泉」、さらにコラール・プレリュード「天にましますわれらの父よ」、「いと高きところにいます神にのみ栄光あれ」の2曲を収録しています。イギリス、カンタベリ大聖堂の聖歌隊員からはじまりオクスフォード大学モードリン・カレッジに学び、合唱経験をも積んだのち79年に混声合唱団を組織。シックスティーンは16人を意味し、曲によって編成を変えながらルネサンス、バロックから20世紀音楽まで幅広くとりあげます。アルトパートは女声とカウンターテノールとの併用。バロックもバッハ以上にヘンデルをとりあげるのもイギリス的です。ドイツの厳格な音響とは一線を画し、有名なコラール旋律も軽やかに奏されます。合唱指揮らしく軽やかで自然な表情。こうしたものは器楽パートよりも合唱が偏重されることが多いのですが、器楽も全体に寄り添い細やかな表情のものとなっています。90年録音。初来日もこのころでした。ルネサンス音楽を中核とした合唱隊は、バロックにあっても清澄なもの。モダンでは冒頭の合唱でのトランペットが威圧的な響きを奏でることがありました。
 
主の母マリア訪問の祝日用という祝典用。バッハのカンタータにおけるトランペットもまた特別な役割のものです。当時の楽器は浪々と鳴る一方で音量のコントロールが求められる楽器でもありました。声を生かした音録りは、響きの配慮も図られています。バッハの本質はカンタータにある。レオンハルト、アーノンクールの最初期の全集録音から、時代楽器の考証に基づいた制作も行われるようになりました。かつてのリヒターの選集や、往年の指揮者たちによる演奏。やはりBWV147は名品だけにとりあげられる機会も多いものでした。シックスティーンの演奏が、かつての厚い響きにかわり軽やかさと自然。時に神秘のようなものをまとっているのも実践的です。モダンとの響きが大きく異なることを確認できるでしょう。ガーディナーのように体系的に取り組まないのは残念ですが、カンタータ集として、この1枚の印象は大きいものです。ルター派のカンタータから、ルネサンスに連なる声の重なりも聞こえてきます。ここからストラヴィンスキーなど20世紀音楽といったところにまでつながっていくのです。
 


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