グラーフ

73年録音。クラーヴェスに残されたグラーフのバッハ、フルート・ソナタ集。今日でも真筆に疑念が持たれた作品があります。当時の鍵盤楽器は発達の途上にありました。史上発のチェンバロの協奏曲が生み出された背景には、音量の増大という背景があります。同じように、管楽器もそうした発達の途上にあり、バッハ時代は単にフルートとすると、リコーダーのことを指すものだったのです。当時の人には横笛ということを示すために「トラヴェルソ(横向きの)」という装飾語をつけると理解されます。キーのシステムがまだ未発達でしたが、現代の金属製の楽器に比べると遥かに木管楽器であったトラヴェルソは独自の音色を持っていました。ブランデンブルク協奏曲第5番では、3つの独奏楽器のうち、もっともチェンバロが活躍します。チェンバロは高価な楽器であり、そうした新規なものに目を向けるのもバッハの志向。ほかの独奏楽器、ヴァイオリンとトラヴェルソがあり、フルートという言葉が一般的でなかったように、トラヴェルソもまだ珍しい楽器でした。ブランデンブルク協奏曲第5番は6曲ある曲のうち、もっとも規模が大きく、さらに実用目的。バッハ自身がチェンバロを弾くために、いつもはヴィオラを弾いていたバッハは編成にも手を入れました。ヴィオラのパートを第2ヴァイオリンが荷なうというものです。そうした音量のバランスが古楽器では適性に採ることができるようになっています。ところが、バッハのトラヴェルソを用いた楽曲は、当時のトラヴェルソを用いるにあたって、高度な技巧を要するものであり演奏至難な難曲ということになってしまいます。その点は、モダン・フルートは有利なのですが、バッハ時代のフルートと通奏低音という編成のもとにバランスが取れていたのに対し、通奏がモダンのチェンバロであってもバランスは圧倒的にフルートの比重があがります。ロマン以降。フルートのための楽曲は、フルート奏者も作品を書くようになっていきます。フルートとピアノという編成が一般的となっていく中、モダンのフルートによるバッハ演奏は、復古というより、現代に寄せてバランスが留意されています。そこでも普遍性を失わないのは、現代のフルートにもその技術が映えるということ。ランパルとピノックの演奏に感激したパユがピノックを招く。モダンと時代楽器の共演も音量の問題はあるとはいえ、普通に行われるようになりました。
 1月末。ニコレが亡くなりました。同じくスイスのグラーフ。26年のニコレに対し、29年のグラーフ。ともに、そのバッハ演奏には一家言あり、独自の世界を築いてきました。そこには、先達のマルセル・モイーズに学んだという共通の項。ランパルもまたモイーズから出ています。グラーフ盤の通奏はイェルク・デーラーのチェンバロに、マンフレート・ザックスのファゴット。真筆が確定されているものに限ったということで、その志向は厳しいものですが、笛の愉悦にも不足しない。そこには人間的魅力ある昔ながらのバッハ演奏が展開していたのでした。

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J.S.BACH "Flute Sonata in B minor BWV1030 - Andante" Peter-Lukas Graf - [Vinyl record](旧盤)

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