$ラストテスタメント クラシック-デフォルメ演奏の探求-ビゼー

シャルプラッテンのビゼー「アルルの女」を収めたレーグナーの一枚。通常、この曲と併録されることの多いオペラ「カルメン」の管弦楽組曲(前奏曲)ではなく、「子供の遊び」と組曲版の「美しきパースの娘」を収録しています。ストコフスキーの第1組曲が演奏されたのは29年。「カルメン」「アルルの女」の構図はやはりLPの時代になって、その収録時間が適していたということによるのです。パレー/デトロイトso(56年)、アンセルメ/スイス・ロマンドo(58年)クリュイタンス/パリ管(64年)、マルティノン/シカゴso(67年)といったラテン系の演奏を中心に録音されてきました。人口に膾炙した名曲なだけに、デジタル時代になっても録音が続き、「アルルの女」も組曲版だけでなく、もともとの少人数によるオリジナル編成の劇伴の全曲ということも増えてきました。ビゼーの36年の生涯。「カルメン」「アルルの女」が鮮烈な輝きを発するため、ひじょうに印象が強い作曲家ですが実際に聴かれている作品はひじょうに少ないのです。当盤の「子供の遊び」はオリジナルはピアノの連弾の作品、「カルメン」以外のオペラでは「真珠採り」がエキゾチシズムで有名ですが、「耳に残るは君の歌声」以外の全曲が聴かれることはきわめて稀です。この作品も、ローマ大賞を受賞しての責務で「大守の一弦琴」が書かれ、オペラ=コミック座で稽古されたものの直前で中止、ローマ大賞受賞者で無名の作家ということで依頼があったものでした。若書きの佳品、交響曲第1番。では、それに続く交響曲は?というと、管弦楽作品を集めたものを稀に交響曲とよんでいるケースがあるぐらいという状況です。「美しきパースの娘」もオペラで、これも佳品ですが、劇中の有名な「小さな木の実」は当盤の管弦楽組曲には収められていません。かろうじて、ギローが編んだ「アルルの女」の第2組曲のよく知られたメヌエットの原曲が、このオペラの第3幕2場の曲。しかし、今や、「アルルの女」のメヌエットとして親しまれるようになってしまいました。9歳でパリ音楽院に入学、19歳でローマ大賞を受賞、リストにも認められたピアノ演奏など、まぎれもなく早熟な天才でしたが、笑い話の一つ、ローマ大賞受賞でローマに赴く際に、恩師カラーファに頼んでナポリの音楽院の楽長メルカダンテへの紹介状を書いてもらいました。結局、彼の地での誘惑も多く、その訪問を果たせずパリに戻ることになり、不要になった恩師の紹介状を読んでみたところ、「魅力溢れる若者です」とあったあとに追伸で「なおビゼーには音楽的才能が少しもないことを申し添えておきます」。
 それでも、美しいメロディとすぐれたオーケストレーション。「アルルの女」は美しい音楽を含んでおり、ギロー編の第2組曲も同じぐらいに優れています。オリジナルの劇伴は27曲で、ほぼ1管編成の26人構成のオーケストラ、4曲の合唱入りの曲もあります。劇は1872年に上演され、4曲編んだ作曲者自身による第1組曲も同年。作曲者の死後編まれた第2組曲の初演の詳細は不明です。組曲版はほぼ二管になり、特徴的なのが劇伴にはなかったサクソフォーンの使用。これが珍しかったため、クラリネットでも代用可としています。あまりにも組曲が有名になったため、先のラテン系には限らない国際色豊かな演奏、たとえばトスカニーニ、カラヤン、オーマンディ、セル、バーンスタインといったオーケストラの機能美を発揮しています。レーグナー盤はよくも悪くもシャルプラッテンというレーベルの個性を打ち出します。宇野功芳氏が熱心に推奨し、レーグナーについても稿を割いています。旧東独。ここに集ったズスケ、マズア、シュライアー、ケーゲル。時間と、共産圏ということもあり、珍しい曲目が登場し、それはケーゲルの録音したヴェーベルンや、ノーノなどの20世紀音楽の作品集などにも典型的に現れます。録音も時間をかけ、商業性とは乖離。それがシャルプラッテンというレーベルであり、それがベルリンの壁崩壊後、ひじょうに不器用にわたりあっているという構図は、このレーベルのアーティストの幾人かに共通します。ラテン的明晰とは対照的なゲルマン的な「アルルの女」。「レーグナーのすばらしさは、ビゼーの持つ南フランスの明晰さと活気を決して忘れていない点にある。だから、どんなにドイツ風の外見をもっていても野暮ったくならず、聴いていて気持ちが浮き浮きとはずんでくるのだ」とは宇野氏。ゲルマンといっても決して思索ではなく、宇野氏の指摘する内容も感覚的な演奏の外面をよく捉えています。これが有名なマーラーの第3、6番を入れたディスクではドイツの森のように深奥に響き、ディスクによって一様ではない姿を表します。確かに、ユニークさではこの上ないビゼー。74年録音。

クリックよろしくお願いします 星       
        ↓
    


第2組曲からパストラール

ラヴェルのピアノ協奏曲から Rolf-Dieter Arens

ワーグナー/ジークフリート牧歌 こちらも宇野氏の著書でよく言及される