$ラストテスタメント クラシック-デフォルメ演奏の探求-ウリッセの帰還

1600年、ペーリの「エウリディーチェ」が現在、残るもっとも古いオペラ。同時期のカッチーニ作品は「麗しのアマリッリ」の影に隠れてしまいました。しかし、現在、レパートリーとして生きているのはモンテヴェルディの「オルフェオ」となります。古代ギリシアを理想の形とみたルネサンスの人たち。それは古くローマの時代にあっても家庭教師にギリシア人を雇い、神々なども名前を変えながらもそのまま摂取し、文化の多くの土台を築いてきました。しかし、復興にあたっては多くが失われ、想像力が試されることになります。多くが神話を題材とし、それは歌われ、演じられてきたということから発生したオペラ。ルネサンスとバロックを結ぶモンテヴェルディは、ルネサンスの多声音楽はストーリーがあり、劇の進行にポリフォニーは相応しくなく、セリフに独特の抑揚をつけたレチタティーヴォ、さらに伴奏という形のモノディ様式を確立。断片ではなく、全曲という形で残る三作品はどれもみな重要です。「オルフェオ」「ウリッセの帰還」「ポッペアの戴冠」。今回の「ウリッセの帰還」は以前、ヤーコプス盤を採り上げました。今回のものは1973年グラインドボーン音楽祭のレッパードの映像です。当時のオペラの一つの形としての前口上。演じられる演目の内容を神々が登場し、テーマを話し合う。神々は「時」「運命」「愛」という3つの類型に加え、「人間のはかなさ」という象徴が登場します。現代音楽の担い手ヘンツェは本作品を校訂し、テイトの映像はヘンツェ版を採用。「人間のはかなさ」を男性で描きました。レッパード盤は、アナベル・ハントを全裸で登場させました。アーノンクールの映像と、この3つがまず基本。実演では文化村でみたヤーコプスが最高でした。グラインドボーン公演は、まずシェイクスピアなどにも伝統のある口上から、宮廷の衣装をイギリス風に置き換えてはいるものの、オーソドックスな舞台です。この作品が特徴的なのは「機械仕掛けの神」が登場すること。ホメーロス「イリアス」「オデュッセイア」などにも描かれた人間の行動の背後を多神教の神々が支援する。人間は木偶ではなく、ここにはトロイ戦争後、夫の帰りを20年も待ちわびているペネロペ、海神ネットゥーノ(ネプチューン)の妨害のもと彷徨うことになるウリッセ(オデッセウス、ユリシーズ)ともに苦悩が描かれます。「オルフェオ」「ポッペアの戴冠」に比べて、上演頻度が著しく低いのも楽譜には楽器の指定がなく不完全なため。
 LP期にはバロック・オペラの多くが長く退屈であるとされていた時代。レッパード盤はモダン楽器による古楽復興の一つの見識でした。バッハの「マタイ」がメンデルスゾーンによって復興されたように、モンテヴェルディ作品も長らく忘れられていました。ヴァンサン・ダンディによって「オルフェオ」が復活させられたのも1905年。ほか「ポッペア」にいたる作品が校訂されます。今日のピリオド楽器による細部の表出とは違いますが、レッパード盤はジャネット・ベイカーの歌うペネロペが素晴らしい。なぜなら、ピリオド楽器全盛の現在ですら、やはり焦点があたるのは神々が登場しても描かれるのはそれぞれの人間の苦悩と喜びといった感情で、それが400年を超えて人の心に迫るから。人間としての歌手たちに与えられた役割が大きいのです。ジェイムズ・ジョイスがその神話の形を作品の中に組み入れ、さまざまな文体や実験を試みた『ユリシーズ』。そこには20世紀、モダンの小説の試みがあり、ここにはポルノとして発禁になるなどがあったように(実際に読んだ人は少なかった)、一部の人を困惑させた描写もある。何度も、さまざまな形になったギリシア神話。それはいまなお新たなものが形を借りてつくられているといってもよいかもしれません。解説によると、レッパー盤は様々な楽器のし湯、たとえばジョーヴェ(ゼウス)には木管楽器、ネットゥーノ(ポセイドーン)にはトロンボーンなどがあてられ、歌詞だけの箇所に関してはレッパードが作曲するなどの手が加えられているとか。これらは作品の復興にあたっての困難な問題だけではなく、新たに甦らすための工夫です。それはピリオド楽器を用いたヤーコプス盤も単なる復興を目指したものではないこと、それが大きく拡大した神話の人物だけではなく、「ポッペア」に結びつく人間を大きくクローズアップしていることにつながります。バロック・オペラ。パーセルの「ディドーとエアネス」にも作品の核をエアネスと見て、ジェシー・ノーマンをあてていました。レッパードのこうした態度。原典主義といった面からは批難されるかもしれませんが、多くのオペラを見慣れた観衆にとっては特別に黴のはえたように古いものではなく、生き生きとした人間の劇として鑑賞できる名伯楽で大いに支持されるところです。

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オープニング プロローグ 死の宿命を背負ったもの(人間のはかなさ)

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