$ラストテスタメント クラシック-デフォルメ演奏の探求-ナブッコ

24歳からオペラを書き始めたヴェルディ。最初の1作「オベルト」は成功をおさめました。しかし、翌年の「一日だけの王様」は大失敗。これは喜劇で、これ以降、次の喜劇作品を書くのは53年後の最後の作品「フォルスタッフ」を待たなくてはなりません。困苦の中から、作曲家を志し、よき父親たらんと努力したヴェルディ。恩師の娘と結婚。結婚は23歳で、翌年、娘、次の年に息子が誕生。息子が生まれた年に娘、翌年、息子、そして次の年には妻までが亡くなってしまいます。ヴェルディのオペラでしばし、過酷な運命が到来し、登場人物たちは困難な歌唱があり、キャラクターが強いのに対し、みな運命に対して等しく無力なのはこうした体験に基づいているかもしれません。相次ぐ、身内の死。そして、そんなどん底の中から浮上の機会を得たのが3作目「ナブッコ」だったのです。中期の名作「リゴレット」に至る作品、以前の作品では劇場によって採り上げられる作品が違います。一般には「イ・ロンバルディ」、「エルナーニ」、「マクベス」、「ルイーザ・ミラー」などが挙がり、それぞれ光るところもありますが、一方で試行錯誤が故の作品の欠点もある。弾丸のように作品を提示し続けたヴェルディ。初期作品は「愛国的テーマ」が多く、運命との対峙が共通します。同じような傾向の原点は「ナブッコ」にあります。
 「ナブッコ」は本格的な序曲ではじまります。しかし、歌劇の素材を抜き出した作品で、冒頭のヘブライ人の合唱へとつながります。まだ過度期であったこの序曲に構成の強さはなく、音楽は強いけれども同時に欠点もある。それが初期作品のヴェルディの特別の難しさ。シノーポリはヴェルディ、プッチーニの初期作品のスペシャリストとして指揮活動を開始しました。解説の中で故黒田恭一氏は「情熱が素っ裸で提示されている」とした上で、「細部に拘泥すると演奏が脆弱になり、作品の欠点が露となる。強さに専心すると力みかえったものとなる」という旨のことを書いています。こうした初期の様式を熟知したガルデッリ盤を。ここでタイトル・ロールを歌うのはゴッピ(EMI専属だった彼のはじめての他社録音だった)。のちのカプッチッリやブルゾンといったよりスタイリッシュなバリトンと比べて、まず際立つのは存在の大きさ。そして、このオペラを至難なものにしている難しいアビガイッレという強烈なキャラクターをデビューして間もないスリオティスが歌っています。先だって採り上げた「ノルマ」を歌っていた歌手。カラスの再来とよばれ、その強烈さで際立つ人。ただし、短い活動期間でこれは代表盤。まず、この強靭な歌唱が印象に残ります。ジャケットに描かれたのは「イシュタルの門」。ナブッコとは新バビロニア王国の「ネブカドネザル2世」のことであり、バビロン市の壮麗な建築で知られます。聖書に謳われる「バビロン捕囚」。イシュタルは古代バビロニアの性愛、戦の女神であり、出産、豊穣、金星の女神。月神の娘にして、太陽神の妹。メソポタミアといえば聖書中の「バベルの塔」の伝説です。タロットカードは上下で意味するところが違いますが、人間の賢しらい対し、神が下した鉄槌である「塔」のカードは両者ともに凶。世界の国の人の言葉が違うという伝説のもとになっていますが、聖書には塔を壊したとは書いてありません「主が彼らをそこから全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめた」。ナブッコは王位をフェネーナ(おそらく正妻の娘)に譲ろうとしていますが、アビガイッレ(おそらく奴隷との間に生まれた娘)にクーデターを起こされます。フェネーナがユダヤ教に改宗したことを知ったナブッコが「自分をあがめよ」と迫る際、「平伏せよ!私はもはや王ではなく神だ」。とたんに雷がおち、王は狂気に陥る。これなどはバベルの塔のイメージを重ねているかもしれません。初演の際のアビガイッレはのちのヴェルディ夫人のジュゼッピーナ・ストレッポーニにであり、その助けがあったからこその失意からの再起でした。「行け、我が想いよ、金色の翼に乗って」は、イタリアの独立の機運と重なり、圧政からの開放(それが遠く聖書に取材したイタリアとは無関係な話としても)というテーマは今も第2の国家となっているほど。音楽の強さと政治利用。もっとも有名なナンバーですが、オペラ全曲、とりわけアビガイッレというキャラクターにはぜひ接していただきたい。ネブカドネザル王がじっさいに錯乱したかは定かではありませんが、神殿を焼き払い、強さで接するスペクタクル。壮麗な舞台装置があって、歌手、演奏の強さがあるとき。たいへんな魅力作として展開します。

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LP盤 「行け、我が想いよ、金色の翼に乗って」

ユダの神よ、貴方に捧げられた祭壇も神殿もまた立ち直るだろう

ああ錯乱した父を許してくれ、娘を私に返してくれ アビガイッレとの対決

奴隷の子であると知ったアビガイッレの歌唱 今や私は金色の王位の血に塗れた座につくのだ