スコアに書いてあるテンポや強弱記号とは何なのでしょう?モーツァルトのpと、ベートーヴェンのpでは同じ音量ではありえません。チャイコフスキーの「悲愴」交響曲pppppとppppppの違いは気分としかいいようがありません。作曲家がスコアに残したものでも手がかりにすぎないものもあるのです。しかし作曲家が一生懸命書き込んだたものは無視できません。近年ではベートーヴェン時代のメトロノームはテンポが違ったとさえいわれた速度記号も古楽器で再現するとき演奏不可能なテンポではなく再現できることが確認できました。たとえばCDの規格のもととなったカラヤン、ベートーヴェンの第9の演奏時間74分をベートーヴェン指定通りのテンポで演奏すると20分近く短くなりますが演奏は可能。すべての実音をスコアに残すのは不可能なのでトスカニーニのいう「すべてはスコアに書いてある」とはよく読み込むことが必要になるわけです。
 名演といわれたスメタナ四重奏団のドヴォルザークの弦楽四重奏曲「アメリカ」80年神戸ライヴ。すべての弦楽四重奏曲の中でもっとも有名で親しみやすいものですが、比較的シンプルなスコアには強弱記号が書かれています。スメタナ四重奏団の演奏は草書といってもいいぐらい。スコアの強弱記号を信じればもっとコントラストのどぎつい演奏になっているはずです。今やドヴォルザークのスコアどおり演奏する団体の方が実は少ないのかもしれません。ブラームスの時代からドヴォルザークの時代と弦楽器の奏法が変化してきており、音量も近代にかけて増大しました。録音でも古い弦楽四重奏の団体、レナーとかバリリなどと聞いてみると現代のものに比べるとか細いぐらいの音量だった確認できます。古い弦楽四重奏に古雅なおもむきがあるのもこの繊細な弦からもたらされているのも多いのです。大きいホールで安定した音程、音量で演奏しなければならない現代の弦楽器奏者はたいへんです。演奏技術の向上もあります。
 スメタナ四重奏団のこのライヴはスタジオ盤での解釈とは基本的にかわりませんが、より熱気の加わったものです。愛聴している人も多いはず。ライヴでの集中力を目撃しましたがとても真摯なものです。しかし、この演奏は彼ら自身の様式化された演奏ということもいえます。必ずしも強弱記号はスコアどおりの演奏ではありません。今日、ドヴォルザークの先鋭的な性格とシンプルなスコアの研究が進んでおり、オーケストレーションや、音楽が熟達したものだったことがわかってきています。当時の弦楽器の性能を考慮して、ダイナミクスの変化をドヴォルザーク自身が求めたという可能性もあります。スメタナ四重奏団の演奏はとても説得力があります。ただし、スコアどおりというと彼らの最初期の演奏の土臭い演奏の方がよりふさわしいものになっています。ただし円熟、録音も後年の方がだいぶ上なので、できれば両方聞きたいところです。

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