ムーンライト・ヴァリエーションズ
スペインの若きチェリスト、パブロ・フェランデスのムーンライト・ヴァリエーションズ。夜を主題にした小品集です。2024年の録音。ピアノはジュリアン・クエンティン、管弦楽はマルティン・フレスト指揮のスウェーデン室内管弦楽団です。管弦楽伴奏はドヴォルザークの月に寄せる歌(「ルサルカ」から)、チャイコフスキーの夜想曲 ニ短調 作品19、ロココの主題による変奏曲の三曲です。ロココの主題による変奏曲は小品というには大きい協奏的作品です。フレストはクラリネット奏者として知られる人物。ノクターンの訳語は夜想曲です。夜の静けさや情緒を表現するものとしてジョン・フィールドによって創始されました。一般的には夜というより、緩やかに展開される音楽を意味します。当盤の主題に沿ったものといえるでしょう。ほか、ドビュッシーの美しき夕暮れ、シューベルトの夜と夢、ショパンの夜想曲 第二十番 嬰ハ短調、第二番 変ホ長調、チャイコフスキーの感傷的なワルツ、リストの愛の夢 第三番、シューマンのトロイメライ、ポンセのエストレリータ、チャイコフスキーのメロディ(「懐かしい土地の思い出」から)といった作品が並びます。ロココの主題変奏曲を除けば、チェロの歌う性格を生かした通常の小品集という趣きです。ポンセの作品が入っているのもスペイン出自のチェリストらしいところ。旋律を生かした小品集は多くが旋律と伴奏系という形になります。複層の線が織りなす多声の音楽に対して主役が明瞭な音楽。旋律は作曲家の顔ともいえるものです。ここにドヴォルザーク、チャイコフスキー、ショパンというスラヴ系の作品が入っているのも理由のないことではありません。どれもが親しみやすい表情を持ったものです。ショパンの作品から旋律を抽出しても、伴奏に回ったピアノもまた楽器の性能を引き出したものとなっています。ショパンの時代のベッリーニの歌劇の息の長いアリアは大きな影響を与えたとされます。ベルカント・オペラ。旋律もまた時代をつくり、ロマンの時代を牽引したのでした。 チャイコフスキーのロココの主題変奏曲の主題はチャイコフスキー自身によるものです。つまりロココ風の主題です。単一楽章のため協奏曲と呼ばれることはありません。歌う性格を持った主題を変奏手法で展開するのもロマンの書法です。変奏曲を協奏曲の一楽章に持ってくるのも通常の在り方です。小品もまた奏者の素顔が見えやすい。フェランデスという奏者の姿がそのまま反映しているのです。人気ブログランキング