昨夜、義父が息絶えた。
体力の全てを絞り出し、ミイラのようになって死んだ。
意識はとうに無くなっていた。
紫の斑が滲む肌。黄色く澱んだ目。
骨と皮になった腕で宙を掻いて呻いていた。
そして静まり、息絶えた。
身体に一垂らしも精力を残すものか、と言わんばかりであった。
十日ほど前、看護師さんが妻に尋ねた。
「お父さんは何をされてた方ですか?」
父は仕事は事務職、スポーツに打ち込んだこともない。
私「あんまり丈夫なんで不思議なんですね」
妻がポツリと「牛乳かなぁ…」
父は酪農業の家に生まれ、一日三杯牛乳を飲んでいた。
とにかく牛乳が好きで、80歳を過ぎてからも毎日牛乳を飲み続けた。
体格がよく、骨太だった。
痩せこけていくにつれ、その骨の太さは際立った。
病院も驚く生命力の秘訣が牛乳だとすれば、牛乳とは恐るべき食物である。
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空港に向かう電車の中、こんなフレーズが頭をよぎった──
「力の限り生きてやれ」
そう、北海道を歌った松山千春さんの名曲「大空と大地の中で」の一節だ。
雄渾な曲である。
ご当人のトークによれば、
松山さんはこの曲を、十勝平野で農業に打ち込む友人のために作った。
…因みに、その友人はカラオケスナックで、この曲の由来をおねえちゃんに自慢していた
…という微笑ましい(?)エピソード付き。
♪果てしない 大空と
広い大地の その中で
いつの日か 幸せを
自分の腕で 掴むよう♪
…
…
♪生きるのが つらいとか
苦しいだとか 言う前に
野に育つ 花ならば
力の限り 生きてやれ♪
生命力のある限り生き抜いた
という点において、義父は見事な人(生き物)であった。
妻も弟も最後を看取ることが出来た。
生き切った。大往生だと思う。
今夜は義弟とワインを飲み交わす。
散る桜 残る桜も 散る桜
(良寛さん辞世の句)
今年の北海道は例年よりー足遅れて桜の季節を迎えた。
「桜が咲くのを待ってたのかねぇ」
妻が言った。
(写真は日比谷花壇さんのウェブサイトから)
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