黒澤映画『赤ひげ』
とにかく重厚な映画である。
そしてキャラが立っている。
円熟した三船敏郎と初々しい加山雄三。
内藤洋子のおでこも可愛かった。
もちろん、二木てるみの鬼気迫る演技は絶品。
黒澤映画は監督自身が脚本を練り込んでいるから、人物造形が緻密である。
そして絵画の心得があるから、構図がしっかりしている。
それだけに、監督色は強くなる。
いかにも黒澤明が「作り込んだ」という映画になる。
この辺は好みの別れるところであろう。
「人間の一生で臨終ほど荘厳なものはない」
この大作映画、前段のシーンである。
膵臓癌の末期、老人はすでに意識はない。
半開きの口が呻いている。
赤ひげ(三船)は、若い医師(加山)にその死を見届けよ、と命じる。
死の荘厳さを知れ、と。
若い医師は、老人の喘ぐ姿に眼を背ける。
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ドラマで観たので、どのくらい事実かは分からないが
先代の林家三平師匠は、死の床で歪む己の顔を、こぶ平さんに見せなかったそうだ。
「笑い」という芸に徹した人の、息子へのメッセージ。
芸人として、父の思い出を語る時に、心に曇りが生じないように──「笑って語れ」と。
実際、すでに意識もなく、苦悶の表情を浮かべた表情を長く見てしまうと、その姿が深く記憶に刻まれてしまう。
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義母の死は心臓発作で突然だった。郵便局で荷物を送った帰りだった。
それは私たち夫婦が関西に転勤した、ほんの数ヶ月後だった。
私は死に目に会わせないために、妻を連れまわしたようなものだった。
母の死後、郵便局から荷が届いた。
それは娘への最後の贈り物。六花亭のお菓子だった。
義父の死がいよいよ近づいている。
すでに身体にはチアノーゼ(肌が紫に変色)が出ている。
今度こそ、妻は死に目に会うことになる。
その最後の姿は、記憶に刻まれることになるだろう。
私は、関東で手をこまねいている。
ただ、妻の目に「荘厳な死」と映ることを願うだけだ。
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