『嘔吐』と言えばサルトルの実存小説。私も学生の頃、一応読んだ。
結構ガンバって読んだが、内容は記憶にない。
なんか、ベンチに座って公園を眺めて「これが実存だ」とかのシーンがあったような気がするが、いずれにしても私の心には響かなかった。
嘔吐を感じることはある。
怒りとか哀しみとか焦りとか、
やり場のない不快感に襲われたとき、身体の奥「精神的な胃」の部分からこみ上げてくる。
私の記憶に刻まれた『嘔吐』は、永島慎二のー編の漫画である。
短編シリーズ『漫画家残酷物語』
まだ貸本漫画があった時代─
主人公は若い漫画家。
貸本漫画業界は斜陽だが、彼の漫画はそこそこ売れている。
恋女房との生活は、ささやかな幸せに包まれている。
出版社の帰り、喫茶店によって自分の新刊を開く。コーヒーをすすりながらページをめくる。
そして、突然
嘔吐する
彼は本当に描きたい漫画を描くために、生活を捨てる。
妻を離縁し、バイトで食いつなぎながら、理想の漫画に打ち込む。
3年後、完成した渾身の一作。
しかしどこの出版社からも相手にされない。
失意の主人公はビルの屋上から落ち、不具者となる。
ところが奇跡的に作品は、ある新聞社の目にとまり、作者行方不明のままベストセラーとなる。
クリスマスの夜、片足を失った主人公はコモを被り、物乞いをしている。
目の前を幸せな親子連れが通る。
母親と手を繋いだ少女の片腕には、綺麗に製本された彼の作品が抱かれている。
彼は追いかけようとして倒れ込み、涙を流しながら死ぬ。
センチメンタルである。
若き漫画家の純情に報いるために、夢が叶うという結末を用意せざるを得なかったのだろう。
それが叙情の漫画家、永島慎二である。
私は今、嘔吐を感じている。
一つは自分自身のために。
もう一つは、
私の愛する若い人が、己の夢から外れた仕事に駆り出され、哀しい想いをしたかも知れない、
という事に。
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