
angel's tale
~ イツワリのルドンナ ~
5.真実の夢
雨……
また雨が降るのかな。
そう、"あの時"は雨が降っていたんだ。
ずっと雨に打たれていたのを覚えている。
こんな風に横たわって、ずっと雨に打たれていた。
"あの時"はどうして横たわっていたんだっけ……
「……ジェンティー!」
「ジェンティー!おまえはマーシャルを叩け!」
「何してる、ジェンティー!デバフは効かないと言っただろ!」
「せっかく調達した"ランカー"が何てザマだ!」
「もう復活スクロールが尽きるぞ!」
「ジェンティーはもういい!そのまま転がせておけ!」
そう……
そうだよ、そうだった。
ディメンションバリアから吐き出され、ベノン村で横たわっていたんだ。
私は死んでいた。
死んでいたが、何故だか意識はあった。
いつもは優しく感じるはずの雨が皮膚に突き刺さるように痛かったのを覚えている。
言葉では言い表せないほどの喪失感、虚無感、そんなものを雨の中で感じ続けていた。
そして、私は私自身の意思によって……
"ジェンティー"を殺した。
それから……
生も死も、夢もうつつも、全てが混ざり合った。
私自身が誰なのかを忘れ、いつしか"ジェンティー"はまるで他の誰かになった。
私の記憶は唐突に始まったし、生きる目的の全ては、"ジェンティー"だった。
私の生きる目的、それは"復讐"だ。
"アビス マーシャル"ではなく、私を否定した"人間たち"への復讐だ。
それが全てだ。
私が新たな名を語り生きる意味など他にはない。
他にはない。
そのはずだった……
あの温もりを知るまでは。
もう一度眠りたかった、彼女の体温の揺りかごで……
でも、良いんだ。
彼女を知って、雨に打たれて冷え切った私の心に、再び熱が宿った。
今もこうして彼女を思うと……
……ほら、温かい。
「どんちゃん!やっと目が覚めた!」
声が届く。そして温かい。
少し笑えてきた。私は生きている。
あの雨の日とは違う……、私には温度がある。
彼女が温度をくれている。それがとても嬉しい。
私は瞳を開けるよりも先に涙を流した。
潤んだ瞼の隙間から覗くのは、心配そうに見つめるユカコの姿がある。
「……私、生きてるの?」
呟くと、彼女は朗らかに「うん」と返した。
私は大泣きし、気づけばユカコに抱きついていた。
「……私が、私がジェンティーだった!あの魔物に殺され、私は弱いからって!必要ないからって!」
私にとっては衝撃的な告白だったが、ユカコは意外にもそれをあっさりと受け入れる。
聞けば、やはりウィザードである彼女には不可解なことが多かったらしい。
つまり私はファイターでありながらウィザードを気取り、魔法を使えている気になっていたのだから。
それから私は泣きながら全てを話し、やっと落ち着いたところで周囲を見回した。
"アビス マーシャル"はおろか、ベノンを襲撃していた魔物は一匹たりとも姿が見えない。
まろさんとハニーが倒したのだろうか。
「次元の魔物は……」
そう聞くと、少し遠くから返事が聞こえる。
振り向いた先には、まろさん。彼は「仕留められなかった」と話す。
「消えた。ハニーが詳細を調べているが、おそらくは異次元空間に引き戻ったんだろう」
そう話しているところに、ハニーが戻ってくる。
「リーナに調べさせたが。どうやらアデン辺りでも次元に亀裂が生じているらしい」
まろさんが「カルティアか?」と問う。
「いや、また新たなものだ。ともかく不安定なんだ」
ディメンションバリアの障壁が破られたわけではなく、その次元そのものが安定を失っているという。
奴らが出てきているうちに仕留められたなら良かったのだが、結局はそれも"時間切れ"に終わった。
逃げ帰られたとも考えられる。
しかし、ディメンションバリアが安定していない以上、奴らはおそらくまたベノンに現れるだろう。
「……ゆたん、決めてくれ」とハニーが言う。
つまりそれは、このままディメンションバリアへと飛び込み、マーシャルを討伐するかという意味だ。
「やるわよ、決まってるじゃない。みんなあれだけ戦ったのにドロップお預けなんて嫌でしょ?」
彼女たちは立ち上がる。ベノンのためにだ。
ハニーは最後まで"リオナの参戦"だけは認めなかった。先ほどの戦いで満身創痍でもあるからだ。
ならば彼らはたったの三人で向かうのか。
そうではない。
ユカコは私の手を引き、立ち上がらせた。
「あなたの戦いを終わらせるの。そうでしょ、ジェンティー?」