両親もいなくて幼い頃の記憶もなく、店主様のもとで密偵として日々殺伐とした感情を抱えたまま大人になってしまった私にとって平穏だった時などなかった。
そんな私が初めて感情を溢れさせてしまったのが、弟にも等しい大切なジェミルがライザール王暗
未遂事件を起こした時だった。
頬を濡らす湿った感触が自分が流した涙なのだと気づいた時は絶句してしまった。私が涙を流すなんて、そんな感情がまだ残っていたなんて戸惑うには十分だった。
「君は本当に我慢強い子だ」
店主様はいつもそう言って褒めてくれた。唇を噛みしめて耐えることを学んだのはいつだっただろう。悲しみも喜びも愛すら私の中から消え去っていたことにも気づかないほどずっと昔から私はそうして生きてきたのだ。
だから同じ境遇にいた、昏い目をしたジェミルにシンパシーを感じていた。私達はそうして互いを信頼しあって姉弟のようにいつだって絆を感じていたのに
そのジェミルまで失ってしまった。王を仕損じたジェミルはそのまま行方知れずになってしまいお別れを言うこともできなかった。
傷ついたあの子の目を思い出すだけで心が痛む。私は大事だったジェミルまで裏切ってしまった。
心変わりしてしまった私をジェミルは許してくれないかもしれない。それでもジェミルの無事を信じたかった。