この国では女の身で教養があることは稀有だった。かくいう私も密偵として多くのことを店主様から学ぶことができた。表の顔の舞いだけでなく男の誘惑の仕方、各国の言語や文化、芸術、政治など幅広く得た知識が王妃を演じる上で役立っている。

 

 

演じるなんて情けないかもしれない。成りすましてしまったからかいまだに葛藤があった。真の意味で王妃になれたらいいのに。世継ぎを産むこともその一つだったが、王が抱いて下さらない以上それは無理な願いだった。

 

 

まだ私が本物だったら、アリ家の支援を望むライザール様と駆け引きの余地があったのかもしれない。だけど偽物だから躊躇してしまう。私ではあの方の力にはなれない負い目すら感じていた。そんな心を見透かされたのかも。

 

 

身分を偽ったまま結婚した時に覚悟していたはずなのに、その罪の重さがわかっていなかったのだと思い知ってしまう。

 

 

ため息をついた時だった。誰かの気配を感じて顔をあげた視線の先に見覚えのある男性が佇みこちらを窺っていた。

 

 

――あの方は

 

 

その男性は目深にフードを被っていて思わずジェミルを思い出してしまい私の動揺をさそった。けれどもちろん見間違えるはずもなく、私は彼に会釈を返した。それは披露宴にいた水煙草商人だった。

 

 

名前は確かハサンと言ったかしら

 

 

こんな時間にこんな場所にいるなんて不信に思わなくもないけれど、お互い様だったから追及する気は起きなかったしライザール様の知己でもあるようだから無下にしない方がよいだろう。

 

 

用心深いライザール様が信用なさっているのだもの。