仕事が舞い込んだ時はやっかいごとに巻き込まれたとうんざりしていたが、王の血を欲する店主様のために引き受けるしかなかった。
情報が少ない深窓の令嬢に成りすますのは容易ではない。婚約者となれば猶更だった。アリ家の体面を守る一方、店主様のために王を誘惑しなければならず、もしことが上手く運ばねばそのまま初夜を迎えることになってしまうからだ。
だからなんとしてもライザール様を誘惑しなければならなかったが、彼をおとすことはできなかった。女としての魅力がないのかって自信喪失したし、なびいてくださらないライザール様を憎らしく思ったわ。
そして私はまんまと彼の手で翻弄されてしまったのだ。それは初めて感じた羞恥だった。彼は私に刹那の快楽は与えたけど深入りはけっしてなさらなかった。汗ばんだ肌を密着させて互いの吐息で満たされた寝台の上で私は未知の扉を覗き込んでしまった。
その甘い誘惑に抗うことができなくて・・禁断の扉を開きライザール様の手解きを受けてただの女になってしまった私にはもう密偵を続けることはできなかったのだ。
それでよかったのだと思う。そうでなければいつかきっと私には悲惨な末路が待っていた気がするから。