もし身分詐称が露見すれば待っているのは身の破滅なのだから。そんな葛藤を抱えていても連日の睡眠不足もあいまって睡魔には抗えなかったのか気づいたら夢の中にいた。
どこか歪んだ幻想的な空間はそこが夢の世界だということを示していた。王宮だったが見慣れた光景ではなく困惑してしまう。夢なのだから現実にある場所とは限らなかったがふと誰かの気配を感じて私は歩き出した。
やがて噴水のある広間へとたどり着いた時、私はここがどこなのか悟った。美しく着飾り笑いさざめく女達がそこかしこで寛いでいるその光景を見たのは初めてだったが、カマルのサロンみたいでどこか懐かしい光景だった。夢だからか女達の顔も明瞭ではなかったがその視線は私に注がれているような気がした。
これは旧ハレムだわ。
荒れ果てていたはずの宮殿は隅々まで清掃が行き届いていたが、香が漂うどこか退廃的な空間でもあった。ここがハレムならば彼女達は皆王の寵愛を競うライバルだから視線に棘があるのも納得してしまう。
なぜこんな場所に紛れ込んでしまったのか考えてもしかたないのかもしれない。だってこれは夢なのだから。不安より好奇心の方が勝ってしまった。
周囲の様子を窺っていると、一人の女が私に話しかけてきた。
「貴女今夜王に呼ばれたのでしょう?ライオール様はなかなか気難しい方だからせいぜい王のご機嫌を損ねないようにするといいわ」
そういう女の顔には隠しようもない嫉妬があった。わざわざそんな忠告にくるなんて。老婆心からじゃないのは確かね。宮中でありがちななんらかの企みがあるはず。
待って、今ライオール様と言ったの?それは先王のことだわ。
ここがハレムならば間違いはなさそうだった。少しずつだが状況がわかってきた。どうやら私は王のハレムに侍る女の1人として見られているらしい。そして今宵王の閨に呼ばれてしまったようだ。