会話がひと段落した時やっとダーラが用件を切り出した。

 

 

「・・・ちょっと来てもらえるかな」

 

 

突然ダーラに腕を引かれた。このままついて行って大丈夫か不安もあったけれどなんだか予感がして大人しく従う。もしかすると子供の頃のライザール様に会えるかもしれないって期待があったからだ。自然と速足になってしまう。

 

 

やがてハレムの奥まった庭園までやってきた。周囲はすっかり人払いされているようだった。秘密の逢瀬に相応しいわね。

 

 

しばし待っているとやがて柱の影から小さな人影が姿を見せたかと思うとゆっくりとこちらへとやって来た。

 

 

「・・・来てくれたのだね・・アリージュ、会えて嬉しいよ。私が贈った腕輪、とてもよく似合っている」

 

 

そう言った人物を見た私は思わず動揺してしまった。話の流れからこの人物がライザール王子であることはもはや間違いなかった。

 

 

だけど!!・・そんなはずない。だって・・・!!この方が王子様だなんてあり得ないのだから

 

 

私を見つめ返すその少年の顔、それはハサンと名乗る水煙草商人だったのだ。声変わりする前ではあったがかすかにハサンの面影があった。

 

 

王子の護衛であり「私」の親友でもあるダーラは今夜王子と引き合わせるためにここに連れてきたのは間違いない。それが王子の願いだったから命令に従ったのだろう。王子様がダーラの気持ちを知ってるかはわからないけれど、なかなか複雑な関係なのかもしれないわ。

 

 

アリージュ、それが「私」の名前なのね。彼女ではないから王子に会いたかったのか避けたかったのかは知りようがなかった。王に呼ばれた以上気まずいのは確かね。