お別れする時、店主様はこうも言われた。

 

 

「あの娘に『賢明』さがあれば運命は変っていただろう・・君のようにね」

 

 

――?

 

 

話が見えなかったけれど、ハサン様が沈痛な面持ちで言葉を続けた。

 

 

「無邪気だった彼女は密かに慕っていた王を誘惑してしまったのです。それはけっしてしてはいけないことだったのに・・・」

 

 

???

 

 

その瞬間私の脳裏に浮かんだのは例の小箱のことだった。

 

 

夢の中で私はあの小箱を拒んだが、彼女は拒まなかったのだとしたら?王族であれば誘惑に抗えないはずだったが、王に効かずに不審に思われたのかもしれないし、あるいは王が彼女に気づかれたのではと勘繰っただけなのかもしれない。

 

 

少なくとも王族ではなかったからこそライザール様は抗うことができたのね。でも欲望に流されなかったのは彼の王としての矜持からだ。そして私がシリーンかもしれないって予感がより躊躇させたのだとしたら思いとどまってくださってよかった。