揺れる馬車の中で退屈を持て余していたらやがて馬車が止まったかと思うと野営の準備をし始めた。
天幕で休んでいると侍女が見事な葡萄を差し出した。
こんな砂漠でみずみずしい果物と出会えるなんて・・嘘みたい
これまでも果物は供されたがドライフルーツばかりだったのに・・
いただいた中ではデーツが美味しかったわ
「あちらに控えた行商人から仕入れたものです。正式な通商手形を持っておりましたし
見はしてございますから安心してお召し上がりください。シャナーサの特産品なんですよ」
紗の隙間から覗くと次女の背後にはこちらを窺う行商人が控えていた。逞しく若い男のようだ。フードから黒髪が見えていた。前髪から覗く紅茶みたいな琥珀色のするどい目つきが気になってしまった。ここはすでにシャナーサ国だからもしかしたら密偵かもしれない。
天幕の中に設置された天蓋から垂れ下がった薄い布越しだからこちらは見えないはずだけど・・
それにしても大粒の艶やかで美味しそうな葡萄だ。
白雪姫の気持ちがわかってしまう。
果物なんてお店に行けば簡単に手に入る世界から来たから、こちらの食事情には不安しかなかったけど・・食べてみたいわ
用意された水は温くて十分とは言えなかったから現地調達をしたのだろう。
けれど失恋で食欲がないのか「私」は一向に手をだそうとしない。
大貴族の姫君だから贅沢に慣れてるのかも・・
食べれる時に食べておいた方がいいのに・・脱水になったら目も当てられない
シンクロ率は行動内容によって変動があることはすでに理解していた。
ならここは譲ってもらおうかしら。
『待って・・美味しそうじゃない。いただくわ・・安全よね?』
下げようとしたお盆から葡萄を一房手に取るとかすかに朝露で濡れており豊潤で濃厚な香がした。
すっかり忘れていたけど恋愛小説で描かれるのはロマンスだけじゃない。陰謀や暗
など不穏な展開も多いものだ。
「私」の立場を考えてもないとは言い切れなかった。